2009年11月15日日曜日

JAL再建に見る日本の課題~レガシーコストにどう立ち向かうか?(3)

13日に発表されたJALの決算内容は、最終損益が1,312億円の赤字、本業の資金収支を表す営業キャッシュフローは400億円近い赤字、そして、手元資金は3月末に比べ4割減少、1,000億円を割り込んだという内容だった。

本業で稼げないために、「手持ち資金を取り崩して事業を続けている」(同社財務担当 金山佳正取締役)状況が浮き彫りになったといえよう。

決算前には、金融機関への債務返済を一時停止する事業再生ADR(裁判外紛争手続き)の申請、つなぎ融資を確保して事業の継続にめどをつけた。

これら一連の内容から、ナショナル・フラッグというネーミングからは程遠い「自転車操業」の姿が浮き彫りになる。


私がビジネス・スクールで戦略論を学んでいた頃、事業運営の原則として、教授から口酸っぱく叩き込まれたフレームワークがある。

π=p・q-k

π: 利益
p: 価格/単価
q: 数量
k: コスト

となるが、何のことはない、利益はどのように生み出されるかということで、

1) 価格/単価を上げる
2) 販売量を増やす
3) コストを減らす

という3つが重要だということだ。

これに現金の受け取りと支払いを表す資金繰りを反映させれば、さらに完成度が上がり、資金調達のためのコスト(利息や配当など。専門用語で「資本コスト」という)を上回る利益(=π)を出せれば、利益率は低くても事業は継続できるというものだ。

昨年の金融危機でパニックになったのは、実際の現場では、お金を調達する際、信用という要素が重要で、その信用の基準が崩れてしまったために、事業会社はおろか、お金の出してくれるはずの銀行間ですら、お金が回らなくなり、その混乱ぶりたるや、一時的に社債などの債券利回りが配当利回以上になるという、普通では考えられない状況に陥ったわけだ。

やや脱線したが、考え方をシンプルにするために、冒頭のフレームワークで今回のJAL問題を捉えてみたい。

なお、JALの年金問題について、年金を受け取る側の権利面から法律の観点から捉えるのは、他のブログやその道の専門家に譲りたい。

企業年金の受給権は私的財産権であり、受給者の権利保護の観点から本件を捉え、NTTやりそなホールディングスなどのケースを引き合いにして語るのもいいが、そもそも支払原資がなければ成立しないでしょう、という意識のほうが強いためだ。

話を元に戻すが、今回の年金原資はコストに含まれる。

これまでの約束どおりの年金を支払い続ければ、コストが上昇、利益が少なくなり、いまのJALの体力(=現金の保有額、もしくは調達能力)からいえば会社が存続できない。

そうなれば、今後の年金の支払いの見通しがつかなくなる。

よって、年金支払減額ということが言われるのだが、もうひとつの手段としては、年金を含む債務を切り離す、ということが選択肢もあるのかもしれない。

これは、現在のJRが民営化した際に、国鉄の債務を切り離し際にとられた措置で、現在、国鉄清算事業本部がその清算業務を引き継いでいるそうだが、年金が含まれる将来費用については、3兆円を国鉄清算事業本部、厚生年金移換金など7,000億円をJRがこれまでの負担分とは別に返済し、その残りは債務免除となったとのこと。

ただ、同様の債務切り離し、一部債務免除という処置ができるのかというと、今、議論されている内容では、JALへの税金投入が精いっぱい(しかも、その際、年金は減額が条件)なのでかなり難しい。

そうなると、年金原資の利益を増やすには、売上を伸ばすか、その他コストを大幅に削減するということになる。

ただ、これが容易に実現されるのであれば、これまでの苦闘もないはずで、少し発想を転換しなければならないのではないか。

売上のpとqを伸ばし、コストのkを減らす手法としては、海外のLow-Cost Carrier(LCC)とよばれる、格安航空会社の事業手法は参考になることが多いと思われる。

そのひとつが低コスト化を実現したうえでの地方航空の活用である。

ここでは、アイルランドのライアンエアが参考になる。

同社の徹底したコスト削減効果により、都市から離れた空港へのアクセスコストを上回る圧倒的な低運賃を設定することで、見放されていた地方空港へ旅客増が見込め‘Ryanair effect’を生み出しているという。

この結果、地方空港への交渉力が増すために、空港使用料も低く抑えられ、さらにコストが減るというポジティブなスパイラルを生んでいるそうだ。

見方を変えれば、不採算路線というのはあくまでも現在のコスト構造だから、という前提つきなので、現在の「不採算路線」も考え直す必要もあるかもしれない。

また、Virgin GroupのVirgin Blue参入の対抗手段として、カンタス航空は、JetStarというLCCを設立、成功事例になっているとも聞く。

いずれもコストを減らさねば成り立たない手法のため、間接人員の多いJALにとって高いハードルだと思うが、雇用といった組織制度面の折り合いをつけながら、携帯電話や電子マネーのさらなる活用による販売コスト削減といった生産性を上げるための施策を考え出さねばならないだろう。

以上のようなπの向上を目指す過程では年金支給額の減額も受け入れて再建をめざし、業績が向上した暁には、また、支給額の水準を検討するのが妥当ではないか。

こうした姿勢が、現役社員と引退されたOB・OGが連帯して取り組むということだと思うが、皆さんはどう感じられるだろうか。

次回は、このフレームを国の年金のほうにあてはめてみたいと思う。

K

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