2009年11月1日日曜日

JAL再建に見る日本の課題~レガシーコストにどう立ち向かうか?(1)

先週のBlogで政府の予算編成に関して触れたが、その後、国会も始まり、この予算問題について活発にやりとりされている様子がメディアでも取り上げられた。

ほぼタイミングを一にして、JAL再建問題について、10月29日、経営再建を検討してきた専門家チーム「JAL再生タスクフォース」より報告書が提示され、容易ならざる再生への筋道の一部が明らかになった。

前原大臣は、「タスクフォースの案を公表することは意味がない」として、報告書の中身を公表しなかったが、毎日新聞が報じた、JALの再建案骨子は、次のとおり。

◆タスクフォースの日航再建案骨子◆

・企業再生支援機構の活用

・公的資金投入を含めた資本増強(3000億円)

・金融機関の融資

・金融機関による債権放棄(2200億円)と債務の株式化(300億円)

・9000人の人員削減

・45路線を廃止

・企業年金の給付水準の切り下げ


拡張しすぎた路線や余剰人員なども問題であろうが、これは「ナショナル・フラッグ」としての役割を担ってきた代償といえる。また、日本エアシステムとの合併もあったので、事業規模の面では、ANAと比べると大きくなってしまった一方で、組織統合といった側面も含めた資産効率を高める努力が必要だったことも想像に難くないだろう。

最大で8,000億円の債務超過になる見通しや、11月末にも資金ショートする公算が大きいなどが報道されているが、ただ一連の内容をみて思うのは、同社の課題の本質は、事業運営そのものではなく、同社が抱える企業年金負担の重さではないかという印象を受ける。

よくレガシーコストなどといわれ、GM再建報道などを巡って、盛んにとりあげられてきた表現だが、レガシーコストとは、「過去のしがらみから生じる負担(いわゆる負の遺産)のことである。狭義には、企業等が退職者に対して支払い続ける必要のある年金、保険等といった金銭的負担を指して言うことが多い」(出典元:Wiki)

事業規模が大きい分、「古き良き」時代を過ごした退職者も多い分、退職者への年金支払いも膨大となる。

毎日新聞の報道を引用して、JALの年金債務のポイントをまとめようと以下のようになる。

・今年3月末時点で退職金と年金の合計額(退職給付債務)は8,009億円。

・年金資産は4,083億円しかなく、引当金などを除くと3,314億円が積み立て不足。

・運用利率が年4.5%と現在の金利水準よりかなり高く設定されているため、積み立て不足は事実上の「有利子負債」で、経営の大きな負担。

・専門家チーム「タスクフォース」は運用利率を1.5%程度に大幅に引き下げる案をまとめたが、実施には現役社員(約1万7,000人)とOB(約9,000人)の各3分の2以上の同意が必要、承認されれば積み立て不足を約1,000億円に圧縮できると見込む。

つまり、JALの「金庫」には引退したOB諸氏に支払うべき年金の半分くらいしかなく、約束している利率が高いことが輪を掛けて負担を重くしているので、現役社員がいくら経費節減や営業努力に取り組んでも、ざるに水を通すが如く、債務圧縮の効果がない構図になっているのだ。

でも、この話、どこかで聞いたことがないだろうか?

そう、先週、Blogで取り上げた政府予算の構図と似ている。

概算要求の4割を占める厚生労働省の予算だけで税収に匹敵してしまうので、その他の国として運用する予算は、国債などの借金で賄わねばならないという構造と一緒である。

国として会社として、両者に共通する根本的な問題は、既に引退した世代への負担、すなわちレガシーコストにあるといえるのではないか。

レガシーコストの悪化が招く結果として、海の向こうでは、GMが民事再生法を申請、同社の資産を切り売りするなどして再建を目指している。

また、JALの再生スキームも経営破たんこそさせないものの、政府管理下に置き、経営陣の退陣を図ったうえで、債権放棄の要請やつなぎ融資、人員削減、そして、企業年金の利率引き下げに取り組むと報道されているので、事実上、経営破たん後の民事再生プロセスと同様といえなくもない。

それでは、日本はどうすればいいのだろうか?

次回、この続きに触れてみたいと思う。

K

0 件のコメント: