2009年5月31日日曜日

年金に見る世代間ギャップという課題

先週、厚生労働省が公的年金の財政検証の一環として、年金給付額に関する新たな試算を発表した。メディア各紙でその概要は報じられているので、ご覧になった方も多いかと思うが、その内容から「世代間ギャップ」という日本が抱える課題の一つが見えてくる。

国の行政機関である厚労省の制度を活用し、年金を納付するにも関わらず、なぜ、そこから得られるリターンが世代で異なるのか。。。そもそもの制度設計に不信感を抱かれる大きな理由であろう。今回の発表について日経新聞で報じられた内容を基に検証したいと思う。

まず、厚生年金を例に、標準世帯において本人が支払った額に対し、何倍の年金が支払われるかを要約すると下記のようになる。




出典: 毎日新聞社「世の中ナビ NEWS NAVIGATOR 生活」より

実際には企業も従業員と同額を負担しているので、それを勘案すると、給付が負担の2倍を超えるのは1945年生まれ(来年65歳)より上の世代だけで、20代や30代では1.1~1.2倍程度しかない。

一方、国民年金の場合、来年35歳になる世代よりも若い世代では、1.5倍になるそうだ。さらに日経新聞では、日本総合研究所の西沢和彦主任研究員の試算を紹介しているが、2005年生まれ世代は、これから支払う保険料の総額に対して受け取る年金は0.8倍程度に留まるという。


ここでは、企業の負担を勘案した額で考えるのが比較的に現実的と思われるので、それをベースに考えてみたいが、二つのことが気になった。ひとつは世代間の給付額の違いの大きさであり、もうひとつは、若い世代における厚生年金と国民年金との違いである。

前者については、現役世代が保険料を納め、それを原資として年金受給世代に給付される「世代間扶養」という仕組みの影響が大きいのだろう。この制度のメリットとして挙げられるのは、時代とともに変る貨幣価値や物価の変化に応じて、給付額が支払われることであり、本人が支払った積立のみから給付される積立方式では困難なものとされている。

しかし、本格的な少子化社会を迎え、直近の5~10年間の経済のデフレ化、そして、今後の経済の低成長率、もしくはマイナス成長率を予想するに、この世代間扶養の仕組みそのものに違和感を覚える。

団塊世代以上の人々は、給付レベルの是非はあろうが、定期的に国から生活費が支払われる。また、貯蓄や土地などの資産など一定の貯えもあろう。一方で、働き盛りとされていた20~30代の世代は、正規社員であっても終身雇用の仕組みが崩れ、いつ解雇されるかわからないし、非正規社員に至っては、昨今の経済状況もあり、不安定極まりない状況である。定期的な収入そのものが期待できず、貯えも作るのも難しい世代なのである。

その状況から、若い世代は年金への支払いそのものが不安定化するリスクがあること、そして、若い世代以上に安定した時代を生きてきた世代が自分よりも有利な条件で年金を受け取れることによる年金へのモチベーションの減退というリスクを指摘しておきたい。

次に、厚生年金と国民年金を20~30代で比較した際、厚生年金が支払いの1.1~1.2倍で、国民年金が1.5倍(来年35歳になる世代以降)というのはどういうことだろう。利率として置き換えれば、国民年金のほうが30%~40%有利と受け取れてしまう。今時、30%の利率の金融商品を探すこと自体が難しいだろうから、「どちらにしますか?」と言われれば、迷うことなく「国民年金!」と誰もが答えるだろう。

厚労省としては、正規社員の減少による厚生年金の減額から、厚生年金を払えない人からの国民年金の徴収を期待しているのかもしれない。いずれにしても、現在、および将来の経済環境から、国民年金を払う人の率は上がるであろうから、この不公平をどう扱うかはポイントになるだろう。制度設計をこのまま変えず、企業の雇用環境が不安定なままだと、会社に勤めない、もしくは会社を辞めてまでも、国民年金を選ぼうとする人が出てきても不思議ではない。

以上、年金に関する課題を挙げたが、これは何も厚労省や政治家の課題と考えるべきではないのであろう。自身の問題点として、選挙を通じた政治への参画や、日頃の仕事との向き合い方、また、制度の欠点からどう身を守るか、などが問われていると考えるべきだと思うが、いかがであろうか。ご意見を伺えれば幸いである。


K

2009年5月23日土曜日

Re-starting my blog

2か月ぶりのブログの再開となる。

 昨今の景気とトップの意向が影響し、仕事のほうは諸々の方向転換が必要となり、また、プライベートでは資格試験の受験や引越などで慌ただしかった。

 よって、とても落ち着きある生活ではなかったが、環境の変化が心地よく感じられ、新たなスタートを切ることができた。

 ブログを休止していた間の経済の動きは、いくばくかの底打ち感を実感できそうな状況ではあるものの、回復基調というのには程遠いのが現状のようだ。

 まずは、身近な生活に関するトピックスから取り上げたい。下記は昨日の日経新聞の記事から。


『世帯所得19年ぶり低水準、07年、556万円、1.9%減、非正規社員増加で』2009/05/22, 日本経済新聞 朝刊

 厚生労働省が二十一日発表した国民生活基礎調査によると、二〇〇七年の一世帯あたりの平均所得額は前年比一・九%減の五百五十六万二千円と一九八八年以来十九年ぶりの低水準となった。コスト削減を目的に企業が非正規社員の比重を増やしたことで所得水準が低下。高齢者の単身世帯の増加も世帯あたりの平均値を押し下げた。

 調査は無作為抽出した全国の世帯を対象に、〇八年六月と七月に実施した。〇八年は秋に生じた金融危機以降、世界的に景気後退が鮮明となり、雇用情勢が悪化。世帯の平均所得はさらに落ち込んでいる可能性が高い。

 一世帯あたりの平均所得は一九九四年の六百六十四万円がピーク。これ以降はほぼ減少傾向にあり、〇七年までに一六%減った。企業のコスト意識を反映し、賃金水準が相対的に低い非正規社員の割合は足元で労働者全体の三割を突破。働く人一人あたりの所得は〇七年に三百十三万二千円と過去最低となった。

 以上の状況については、情報元である厚生労働省の公表資料のほうがわかりやすいので、以下のURL参照されたい。

平均所得の年次推移:
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-1.html

所得の分布状況:
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-2.html

 要約すれば、1世帯あたりの平均所得は1994年以降減り続け、今となっては、平均所得の556万円以下の世帯が6割を超すという状況である。

 この状況を日経新聞では、コスト削減を目的にした企業による非正規社員の増加と、高齢者の単身世帯の増加が原因であるとしている。ここで企業側の状況が気になった。

 下記は23日付の日経新聞の記事であるが、名だたる名門企業ですら、青息吐息なのが伺える。

国頼み経済緊急避難か逆行か 2009/05/23, 日本経済新聞 朝刊

 「公表できる段階ではない」。十二日、東京証券取引所。二〇〇九年三月期の決算を発表した日本航空取締役の金山佳正(57)は記者団の質問をかわした。日本政策投資銀行と民間銀行が合計二千億円の融資に踏み切る――。金山が言葉を濁しても、巨額の支援はもはや既定路線だ。

 業績が悪化している日航が、公的融資の根回しを始めたのは二月中旬だった。社長の西松遥(61)が経済産業相の二階俊博(70)を訪ね、こう切り出した。「たいへん厳しい状況です。よろしくお願い致します」

 国土交通省の通称「JAL対策室」も二階に訴えた。「この状態が続くなら、自力ではやっていけません」。官民二人三脚の経産省もうで。最後は財務・金融・経済財政相の与謝野馨(70)が引き取り、財務省に支援を指示したという。

「非効率」温存も

 昨年秋からの金融危機を受けて、日本でも国の経済介入が強まった。政府が企業の資金繰りを支えるため、政投銀の危機対応融資制度を使い始めたのは昨年十二月。融資枠は十兆円に膨らみ、日産自動車などが支援を受け入れている。

 〇八年度の実質経済成長率はマイナス三・五%。戦後最悪の不況を企業が自力で乗り切るのは難しい。政府の支援が安全弁としての役割を果たしたのは否定できない。

 問題は公的融資の使い方だ。一時的な痛み止めに終わるようでは、非効率な企業の延命に手を貸す結果になりかねない。緊急支援を構造改革につなげ、収益力を高められる企業とは……。その見極めが政府にできるかどうかは心もとない。

 四月十四日、経産省審議官の木村雅昭(50)は台湾当局の関係者との会談に臨んだ。同席したのは日本の半導体大手エルピーダメモリ社長の坂本幸雄(61)。設立の準備が進む半導体会社、台湾メモリー(TMC)の幹部の姿もあった。

 業績不振のエルピーダは「日本政府の出資」と「TMCとの技術提携」に生き残りをかける。木村は坂本を支えると台湾側に伝えた。国内唯一のDRAMメーカーの再建は日本の「国策」に近いという。経産次官の望月晴文(59)も「たいへん重要だ」と言明する。

 改正産業活力再生法が四月二十二日に成立し、政投銀が企業に資本注入できる制度がスタートした。出資枠は二兆円で、パイオニアも活用する見通しだ。「融資」の先を行く「出資」。緊急融資で自動車大手を支援した米政府も、まだここまでは踏み込んでいない。

 BNPパリバ証券の河野龍太郎(44)が語る。「金融システムは公共財だといわれる。だからこそ金融機関への政府介入が容認される。一般事業会社への政府介入は理論的な根拠に乏しい」。首相の麻生太郎(68)も十分な説明責任を果たしたとは言い切れない。

一気に1兆円

 「電機業界の再編にも使えます」。四月下旬、経産省の幹部は野党議員の説得に追われた。官民が企業に出資し、埋もれた先端技術や特許の事業化を支援する「産業革新機構」。その拡充を認めてほしいというのだ。

 産業革新機構の出資枠は二年間で二千億円のはずだった。ところが自民党の圧力もあって、民間の出資に八千億円の政府保証をつけることが決まった。出資枠は一気に五倍の一兆円に膨らみ、民主党が「後出し」と反発する騒ぎに発展した。

 〇三年からの四年間で約四十件の支援を引き受けた「産業再生機構」。政府は「国主導の企業再建の成功例」と胸を張り、同じ夢を新組織に託す。だが産業再生機構のような目利きができるのか。支援企業の線引きや出口戦略が見えぬまま、なし崩し的に政府の関与が強まっていく。



 やむを得ない緊急避難措置はある。ただ民から官への逆行が行き過ぎてはいないだろうか。「国頼み」の日本経済を検証する。(敬称略)


 BNPパリバ証券の河野氏の「一般事業会社への政府介入は理論的な根拠に乏しい」とするコメントは最もなように聞こえる。ただ、氏の属する会社が、おととし夏の金融危機の引き金の引いた一端を担ったことは、氏にとって、すでに過去の出来事なのであろうか。

 また、日経の「民から官への逆行」の懸念も気になる指摘だ。そもそも、バブル期以降、民のみでうまく舵取りができるのであれば、先の世帯所得の下落の一途はどのように解釈すればいいのか。

 市場ルールに則れば、後段の記事に出ている企業は既に「アウト」なのだろう。非効率な会社は早めに「スクラップ」して、次の会社・業態の誕生を促すべきというのが新自由主義的な考え方であろうが、今回のような経済状況のなかで果たして、市場に任せた「自浄作用」が可能なのであろうか。

 こんな状況で問われているのは、適切、迅速である意味で大胆な政府の支援
であり、それを裏付けている国としてのこれからの在り方なのではないか。

 よって、この状況が長く続く必要はないが、3~5年くらいのスパンで、官にはきっちりと役割をはたしてもらう必要があると感じるのは私だけであろうか。

K