2009年8月30日日曜日

総選挙後の日本社会 ~私の望むこと~

今朝、投票に行ってきた。

普段、投票所の周辺は日曜日といえども、それほど人通りを感じないのだが、今朝は様子が違った。

帰りに寄ったスーパーも、日曜日の朝にも関わらず、大変な人の入りようだった。

これも選挙の影響か?

2005年の総選挙とは違う意味での今回の選挙は盛り上がりを実感する。

マスコミ各社は、民主党の大勝を報じ、自民党は100議席もとれないのでは、という報道まで出る始末。

そういう形勢逆転が予測される環境で投じる一票に、少なからず、政治的参画への意義を感じるのは私だけではないだろう。


民主党が政権を取った後の社会はどうなるのか。

予測されるのは、子育て支援、最低保障年金の実現、農業の個別所得補償、高速道路の無料化などの政策を推し進めるために起こる、「高負担」社会の到来だろう。

だが、民主党はこれらの政策は、消費税率を上げず、税金のムダづかいを排除することで実現するという。

よく指摘される「民主党政策の財源の不明確さ」はそのギャップから生じるのだが、民主党としては、あくまで、家計の可処分所得を増加させることを目的にするという。

各々の立場によってこれらの政策によって得られる効用は異なるように思えるのだが、仮に民主党が政権をとった場合、個人的にどうメリットを享受できるか、大いに注目したい。

また、経済については、環境対策、中小企業の税率の引き下げが具体的に掲げられているが、焦点はどちらかといえば内需型経済の推進になるだろう。

額面通り受け取れば、小泉政権以降、続けてきた経済政策からは大きな政策転換となるわけだが、今後の日本経済にどう影響を及ぼすのか、こちらも注目されるところだ。

以前のBlogでも述べたが、農業・環境は、ある種、インフラ事業なので、大手企業の参入ばかりが図られ、結局、生活者の利便性が損われたり、新規参入の可能性が少なくなるようでは、その効果も限定されてしまうだろう。


私は、環境や農業も改善してほしいのはやまやまだが、それに加えて、公共政策の推進がそのまま高負担にならない社会、言い換えると、自治体や公共団体が担っている役割を、社会的起業家がその役割を担える社会が実現されることを望む。

20代の若者の間で、こういった分野に関心を持つ人が多くなっているのは、大変、頼もしく、より多くの若い世代に、社会的起業を行ってもらいたいと思う。

もちろん、彼らは資金や経験が少なく、失敗に終わることも多いだろう。

その点、海外にあるようなNPOやNGOの活動を支援する組織・団体の設立し、仕組みとして支援する体制を整えたり、事業が失敗した際の保障を充実させたり、といったことを同時に準備する必要がある。

高齢化社会を迎える日本は、今後、社会保障費がうなぎ登りで、国の予算配分もそちらに比重を置かざるを得なくなるだろう。

それだって、いままでの前提で考えるからそうなのであって、より柔軟性があり、気力や体力も充実している世代がその役割を担えれば、ある種、社会的な事業として取り組むことで、予算も少なくて済むかもしれないし、社会に役立ちたいという希望にもこたえられるかもしれない。

また、そこで行った社会的事業の取り組みが同様の社会構造をもつ国々(中国もあと10年もすれば同じような課題に直面するはず)にも役立つかもしれず、国際的な活動機会も生まれるだろう。

新たな「ジャパン・モデル」の誕生である。


総選挙後の日本社会は、そのようなダイナミズムが生まれるだろうか?

少なくともそうした期待だけは失わず、引き続き、このBlogで触れていきたいと思う。

K

2009年8月24日月曜日

Post Electionの日本の政治をどう評価するか?

今、私の手元に2つの政党のマニュフェストがある。

今度の衆院選で与党になると予測されている某野党と、議席数は少ないが、生活者視点の政治の重要性を訴える、これまた、別な野党のものだ。

この週末、歩いていて何気なく、受け取ったものだ。

偶然かもしれないが、選挙一週間まえにもかかわらず、自民党のマニュフェストを受け取ることはできなかった。

これも勢いの差かなと思う。

手元のマニュフェストによれば、民主党が掲げる主な政策目標は、税金のムダづかいの根絶、子育て支援、年金通帳の発行、「地域主権」の確立、中小企業への税率減少、などとなっている。

今回の選挙結果について、様々な予測が出ているが、民主党の勝利が大勢の見方のようだ。

時事通信社は、民主党が480議席中300議席以上を獲得するだろうと報じている。

もし、そこまで圧勝すると、他党との連立を組むことなく、議会運営ができるようになる。

国民の本音としては、とりあえず、今の自民党政権に確信が持てない、はたまた、ポスト小泉政権の運営にほとほと嫌気がさした、などいろいろ理由はあろうが、一度、与党を変えてやれ、ということなのだろう。

大きな期待は持てなくとも、自民党政権の下で、スポットが当たらなかった部分が明るみに出るかもしれないという期待感もあるだろう。

既にいくつかのメディアでは専門家の意見として、ポスト・エレクションについて状況が述べられている。

慶應大学の竹中平蔵教授は、政権政党が自民党になっても、民主党になっても、各党の政策実施の際に、税負担が重くなることを懸念しており、特に法人税の税率を上げるようなことになれば、企業は一斉に日本から逃げていく、と警告を発している。

また、日興シティグループ証券 藤田氏は、民主党が衆院選で単独過半数を獲得した結果、環境技術の育成や人口動態の改善、個人消費の拡大により、株価が上昇するとしている。

加えて、今回の政権交代は、「小さな政府、タカ派」(旧田中派、経世会)から「大きな政府、ハト派」(旧福田派)に振り子が振れようとしている、と論じている。

状況を大局的に見る見たてとしてわかりやすい例えであり、田中真紀子氏が、民主党へ鞍替えするのは、象徴的な出来事であった。

いずれにしても、今回の選挙で仮に民主党が大勝すれば大きな方向転換となるが、その成果が1年前後のインターバルをおいて国民の審判に問われることになる。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、来年の夏に参議院選挙がある。

この1年間の政権運営で支持を得られなければ、参議院選でシビアな結果になるだろう。

よって、今回の衆議院の任期は4年といいつつも、新しい与党は、それほど、悠長に構えているわけにはいかない。

すぐにでも、成果を出さなければならない。

自民党のマニュフェストに若者の職業教育の強化、年長フリーターを重点とした正規雇用化支援といった内容はあるが、民主党のマニュフェストと合わせて見ても、私のBlogで何度か唱えてきた、世代間格差は根本的に解消されそうもない。

少子化対策も大事だし、年金も国民の信用が関わるのでフォローアップは必要、これらは最低限やらなければならない課題であることは確かである。

ただし、今後の4年間を見据えた政治的・経済的な政策のプライオリティーとして、現在の20~30代の雇用、別な言い方をすれば、この世代の社会的参画のあり方を本格的に取り組むべきではないかと思う。

これは製造業派遣対策に限らない。

より大きな意味で、多少時間を掛けても、大きな社会的変革を促し、若者世代の仕事への関わり、自己実現への手段の提示、社会参加の機会を提起していく必要があると思う。

これは産業界だけの取り組むだけでは不十分で、政治的リーダーシップがないと出来にくいことであり、その意味で、より本腰を入れて取り組んでいただきたい。

ここ数年で、中国、マレーシア、トルコ、オーストラリアなど旅行で訪れたが、若者が元気な国は勢いを感じる。

私はこの世代間格差の解消を本気で取り組めるか否かを、Post Electionの政治を評価するうえで、ひとつの軸に据えたいと考えている。

K

2009年8月19日水曜日

Bottom-upから考えるNew Economy(2)

社会的起業についてはこれまでのBlogでも何度か言及してきたが、ボトム・アップ型の経済システムのひとつのソリューションになると考えている。

というのも、活動の性質として、今ある経済システムから漏れてしまう様々な社会的ニーズを解決する手段として、有効と考えるからだ。

芝浦工業大学・渡辺教授と東京工業大学大学院・露木氏の両氏は、最近の論文「社会起業家と社会イノベーション」で、市場経済を前提とする経済活動と公共サービスを提供する政府活動の2つのセクターに加え、市民がイニシアティブを持つ第3のセクターとして、非営利組織(NPO/NGO)に並び、社会起業家(Social Entrepreneur)に関心が集まっているという。

その背景として、グローバル化と利益の最大化を前提とする経済とは別に、「もう一つの経済(Alternative economy)」が存在しているという考え方がある、と。

その典型が、「コア・コンピタンス経営」の共著者で有名なC.K.プラハードが、「ネクスト・マーケット」で唱えた、「ボトム・オブ・ピラミッド」というコンセプトであり、利益極大化の経済システムが無視してきた市場に焦点を当てようというものだ。


コア・コンピタンス経営


ネクスト・マーケット

具体的には、発展途上国の低所得者層向けの事業を想定しているのだが、日本でもお馴染みの取り組みとしては、グラミン銀行のマイクロクレジットなどもこの取り組みの一つといえるだろう。

勘違いして欲しくないのだが、ここで訴えようとしているのは、発展途上国向けのビジネスを普及させようということではない。あくまでも、日本で行う事業を前提としている。

イギリスの社会変革財団 ヤング財団のGeoff Mulgan氏はいう。

「Business Innovationが、“利潤最大化”に動機づけられたイノベーションと位置づけられる一方、Social Innovationとは、“社会ニーズ”に動機づけられた革新的な活動やサービスである」

日本では、昨今の景気悪化もあり、景気浮揚策の一環で経済第一主義になりそうな雰囲気もあるが、この10年弱の市場の歪みを直す意味でも、「もう一つの経済」、「“社会ニーズ”に動機づけられた革新的な活動やサービス」に注目する必要があると思う。

先のBlogで、農業とエネルギーを政府のイニシアティブとして推進すべし、と申し上げた。

しかし、これらの事業には初期投資に莫大な資金が必要で、その投資回収を前提に事業計画を立てざるを得ない。

また、その分、安定した利益を上げるのに時間が掛かることも想定される。

別な言い方をすれば、これらのNext Economyへの参入は巨大な資本を持つ会社や団体のみに限られ、利益最大化を目指す市場経済の論理で展開されることも十分に予想される。
(現にEnronはそうだった!)

そのため、事業の性格としてはこれまでの製造業と大きくは変わらないことになるかもしれない。

また、我々の生活にベネフィットとして実感されるまでに時間も掛かるだろうし、その事業のなかで雇用を吸収しようとするのも限界があるだろう。

一方で、社会起業家による社会ニーズに応えるビジネスはそれとは異なり、はるかに少ない資金、しかも、少人数で始められるメリットがある。

より本質的には、利益の最大化を目指す市場経済でも、様々なしがらみから逃れられない政治活動にも実現できないサービスが提供される可能性があるということだ。

だから、社会的起業は既存の会社組織や団体に縛られることなく、個人がオーナーシップを持って始めるべきだと思う。

少ない事業体や団体が従業員を雇うのではなく、数多くの事業者が少ない従業員を雇うような社会、「1億総中流」ならぬ、「1億総事業者」構想というのもスケールが大きくて面白い。

ただ、懸念されることとして、ある一定のニーズの下、始めるのでそこそこの事業にはなるだろうが、どれくらい継続し、どれだけの規模になるのかは不透明な部分も多い。

だから、事業が行き詰まる前の対策や事業が倒産してしまった後のセーフィティーネット面で、政治的なイニシアティブも重要である。

そして、事業資金の獲得が大切であるが、これは既存の金融機関に頼れないだろう。

その役割を果たすのはCSR投資に関心を示す投資ファンドや、マイクロクレジットを行う金融機関(「グラミン銀行 日本支店」?とか)だろうと思う。

こんなところにも、新たな産業や雇用の受け皿が生まれそうだ。

こういった、「もう一つの経済」を前提にした社会起業家、そして、彼らの活動によるソーシャル・イノベーションで、ボトム・アップ型のNext Economyは、これからの日本を考えるうえで、大切なコンセプトだ。

今の20代の若手世代がこの領域に関心を持っているのも心強く思う。

これら社会起業をサポートするシステムや具体的な事業など、引き続き、この課題については、折に触れて、注目していきたいと思う。

2009年8月16日日曜日

Bottom-upから考えるNew Economy(1)

前回のブログでは、衆議院総選挙が今月末に迫っていることもあり、日本経済を俯瞰して捉え、政治と経済の関係から次の日本経済のエンジンを考察してみた。

昨今、特に脚光を浴びている農業と新エネルギー事業については、日本が資源に乏しい国であることともに、産業としてのインパクトの大きさから、ある種、「インフラ」事業として政治課題として取り組むべし、という内容でまとめた。

今回からは、より身近な生活者の目線からNew Economyを考えてみたい。

特に社会参画という意味での我々のワークスタイルについてどう取り組むかは大変重要なことだと思う。

特に20~30代前半といった若い世代の雇用を生み出す事業がどうあるべきかは緊急の課題である。

確かに、政治や経済といった大局的な観点でみれば、農業や新エネルギー産業は大事かもしれない。

しかし、その基盤整備ができ、食べ物やエネルギーの心配がなくなったからといって、それらの事業が今までの製造業が生み出してきたような雇用機会を生み出すとは限らず、機械・設備などの技術発展により、むしろ、生産性が上がり、働き手が不要になることも考えられる。

例えば、最近、流行のスマートグリッドが普及したら、今の電力会社が必要としている労働力と同じだけの労働力が必要になるだろうか?

そんなハイテク・インフラがあるのに、電気の検針を人が一軒一軒検査する状況など考えられない。

また、農業にしてもしかりで、作付面積が広くなった畑や田んぼでは、農地が増えれば、人では必要になるであろうが、その分、生産性を上げようと必死になるだろうから、今の農作物のアウトプットに掛かる労働力よりも、少なく済んでしまうのではないだろうか。

日本はこれから少子化社会を迎えるが、問題はその少なくなる労働力と生み出す雇用がどうバランスするかで、結果的に労働機会が少なくなってしまっては元も子もない。

技術の進化によって、益々、生産性が上がることになることは間違いないし、単純な労働であれば、中国をはじめアジア各国で請け負うことが可能となるので、今までの延長線上で、雇用を考えてはならない。

そのいい例がアメリカだ。

技術発展により、どんどん人手が掛からなくなるなか、製造業は、中国、インド、メキシコなどに工場を移転、本国に、労働集約的な雇用機会は残らなくなった。

その結果、スキルを必要としない労働については、移民も加わって競争が激化、益々、賃金が上がらなくなる。

こうして資本家や経営者は富み、労働者の収入は限られる格差社会が、堅固になっていく構図が鮮明になる。

日本も既にその兆候が見られるが、今の状況を放置したら、世代間で雇用機会や賃金に生じる格差以上の状況になるのではないか。

極論すれば、富める資本家・経営者が、移民やアウトソーシングを使って事業を行うような社会というのもあながち的外れではないかもしれない。

だから、生活者目線からNew Economyを考えることに意義があるのだと思う。

前置きが長くなったが、次回のBlogで本論に移ろうと思う。

K

2009年8月9日日曜日

Next Economyについての政治への期待

前回までのブログのなかで、日本経済の現状、ならびに今後の予測を観察してきた。

結局、いまのままでは、雇用も生まれず、賃金は上がらず、価格下落のデフレ現象がダラダラと続き、企業業績の継続的な成長は見受けづらい状況であることを指摘した。

そういうなか、先週は、次の成長エンジンになりそうなトピックスがないか、意識的に各メディアを見てきた。

日経新聞は、「ニッポンの農力」というタイトルで特集を組み、次の成長産業のひとつの候補として、農業にフォーカスしていた。

中国での大胆な農業振興や、レストランを含む流通ニーズに対応した農作物作りや、耕作地の取り扱いの課題など、多方面にわたる側面から農業問題を取り扱っていた。

また、太陽光発電や電気自動車などのエネルギー関連のトピックスも引き続き、取り上げられている。

エコ住宅というコンセプトがにぎやかに取り上げられるなか、経済産業省は6日、家庭の太陽光発電で得た余剰電力を電力会社が買い取る新制度について、年内に開始する案を公表した。

また、三菱自動車は社長の直属組織として電気自動車事業の運営を手がける「EVビジネス本部」を新設すること、日産自動車は2010年後半に発売予定の電気自動車「リーフ」を発表した。

そして、これら2社に加え、富士重工業と東京電力は、EV普及に欠かせない急速充電設備の整備で協力すると正式発表を行った。

これらを後押しするように、地方自治体が相次いで、電気自動車を普及させる独自の施策に乗り出している。環境にやさしい車の拡大に一役買うことで、地域のイメージの向上につなげる、という。

東京都などが購入者や充電施設を設ける事業者に補助金を出すほか、京都府や京都市は観光客らが利用するレンタカーやタクシーへの導入も後押しする。

神奈川県の場合、補助額は1台につき上限69万~69万5000円。国の補助とあわせると230万~240万円程度で購入できる。2009年度は200台の助成を見込む。


環境問題への意識の高まりもあり、農業やエネルギー分野への注目度が高い。

特に資源に乏しい日本は、両分野は喫緊に解決すべき課題のはずであり、いままで「表舞台」で取り上げられなかったのが不思議なくらいである。

ただ、注意しなければならないのは、いずれもある意味で「インフラ」事業なので、基盤整備が整わない限り、飛躍的な発展も望みづらい。

よって、ボトム・アップで仕組みが出来上がるという性格のものではなく、トップ・ダウンで取り組むべき課題と思われるため、政治的課題として取り組むべきもののはずである。

日本の高度成長期には、国土の均等なる発展を掲げた「列島改造論」があり、大いに土木・建設業を盛り上げた。

地方を含む広域な経済インパクトという意味で旧建設省が主導した土木・建設事業の下支えは無視できない。

農業やエネルギーをその現代版として、国として「青写真」を掲げ、政治的アジェンダとして取り組むべきものだろう。

自民・民主各党でも、「環境にやさしい」といったトーンでこれらを取り組もうという意識は垣間見える。

ただ、どちらかといえば、いずれも総花的で、様々な課題を積み上げてマニュフェストとしている印象が拭えない。

子育て支援や雇用保障はもちろん大事。ただ、何を主要な政策課題に掲げて次の選挙までの4年間に政権政党として取り組むのかを問いたい。

誤解を恐れずにいえば、適切な生活保障に関する制度設計を行うのは当たり前のことで、それをあたかも政治的な政策課題のように語るのは、やや論点がズレているように思われる。

生活保障は必要だが、それだけでは雇用は生まれない。

成長エンジンとなる産業振興を行い、結果、雇用を生み出さなければならない。

今月末に選挙もあるので、まずは、政治への期待という観点から、今回のブログをまとめてみた。

いろんなご意見をお寄せいただきたい。

K

2009年8月2日日曜日

株価浮上の裏側にあるものは?

このところ、株価が上昇してきている。

本日の日経新聞によれば、2009年4~6月期決算を集計したところ、世界的な不況で1~3月期に赤字に陥った全産業の連結経常損益は黒字に転換したという。

自動車や電機を中心に合理化が進展、企業業績は1~3月期を底に最悪期を脱したとの見方も出てきたと報じている。

その記事では、主要データとして、以下のように紹介している。

・4~6月期の全産業の連結経常損益は9,783円の黒字

・主因は製造業の合理化効果。輸出企業は工場再編や人員整理に踏み切り、製造業の赤字は2,552億円と1~3月期の約9分の1に縮小。

それを踏まえ、ドイツ証券の神山直樹チーフエクイティストラテジストの、

「経済危機が日本企業の収益を直撃した原因は低い利益率。03年以降の構造調整をしのぐ再編や、生産性向上を通じた体質改善を続ける必要がある」

コメントを紹介している。

およそ金融機関のアナリスト・コメントとしては、平均的なコメントと見るが、それほど、簡単な問題だろうか?

それを考える上で、先週発表された、完全失業率と物価指数の推移に注目してみよう。

以下、その主要項目。

(失業率)
・6月 完全失業率(季節調整値): 5.4%/完全失業者数: 348万人
-2003年4月に記録した過去最悪の5.5%に迫る
-就業者数は前年同月比151万人減と過去最大の落ち込み(6,300万人)
-製造業や建設業で落ち込みが激しい
-生産活動の縮小などに伴う「勤め先都合」の失業者が121万人と最も多く、定年や自己都合を上回った。

・6月の有効求人倍率(季節調整値): 0.43倍(2カ月連続で過去最低を更新)

(物価指数)
・消費者物価指数: 前年同月比1.7%低下
-消費者物価が大きく落ち込んだ最大の要因はガソリン価格の減少が大きいが、石油製品や電気代などの特殊要因を除いた内閣府試算の総合指数(コアコアCPI)は6月に0.4%低下し、2カ月連続のマイナスに

やはりというか、失業率の悪化と緩やかなデフレの進行が確認される結果となった。

そこで、企業業績の回復の指標として株価をとり、今年に入ってからの各々のデータと比較したグラフを作ってみた。



まず、日経平均株価と失業率のグラフだが、完全にその足並みがそろっていることがわかるだろう。やや専門的になるが、両者の相関関数は+0.89でポジティブな相関がみられる。

言い換えると、リストラの進行が企業の業績を押し上げるという構図だ。

これを物価指数との関係でみると、下記のようになる。



失業による所得減少の影響が、モロに効いていると解釈できる。

しかも5月以降の消費者物価指数の下がり具合はかなり極端だ。

通常、消費者物価指数の先行指数として、企業物価指数が用いられるが、それと比較するとこうなる。



ここから読み取れるのは、さらなる物価下落の兆候が見られるということ。

単純には比較できないと思うが、企業物価の1月時点を消費者物価の4月と重ね合わせて単純計算すると、消費者物価は7月以降の約半年感で3%前後下がってもおかしくないようにみえる。

以上から見えてくるのは、人員削減を通じた企業の業績回復とおよび本格的なデフレ時代への逆行である。

さらに、下記のグラフを加えて考察すると・・・



株価と企業物価の完全な逆行状態が見て取れる。

先週の日経ヴェリタスを見るに、この現象は中国でも見られ、上海総合指数と卸売物価が完全に逆相関となっていた。

ヴェリタスの記事では、この中国の状況について、原油価格の下落要因以外に、投資急増による過大設備による需給ギャップが原因とみて、今後の実体経済への不安要因を指摘していたが、日本も同じ状況にあるといえないか。

まとめると、4-6月期の企業業績の回復においては、様々な要因のうちのひとつが人員削減であり、その効果は自動車・電機など製造業において顕著。

ただし、以前、物価は下がり続けているため、設備の過剰感は拭えず、このため、単純に企業業績が上向くとは予想しづらい要因となっている。
(日本株への投資は要注意か?)

言い換えると、やはり、いままでの産業の枠組みで景気回復は難しいということか。。。

やはり、新しい経済の「エンジン」を考えねばならない。

K