2008年11月30日日曜日

Gap between real economy and financial assets

今回の金融危機のインパクトが「100年に1度」といわれるくらいマグニチュードが大きく、かつ、その被害を大きくしているのは、実体経済と金融資産のかい離ではないか、と考察している。ここでいう実体経済をGDPとして実際に金融資産とどれくらい開きがあり、また、それはどのような影響を及ぼしているのであろうか。

2006年の週刊エコノミストのデータによれば、下記のような状況とのこと。

-世界の金融資産: 152兆ドル
-世界の名目GDP:  48兆ドル
-両者の開き:  3.2倍

どの指標を使うかにもよるが、その差は3倍強(だった)と考えるのが相場らしい。

木村証券の北村氏は、「日本の個人金融資産は潤沢」という通説に対して、名目GDPと金融資産の比較において、

・アメリカよりのほうが金融資産の比率が高いこと
(金融資産÷名目GDP=日本:303%、アメリカ:317.8%)

・名目GDPに対する現金・預金の比率は日本のほうが圧倒的に高いこと
(現金・預金÷名目GDP=日本:152%、アメリカ:40.2%)

を引き合いに出し、「個人金融資産の現金・預金の名目GDPに対する倍率が、米国の3.65倍と経済の規模に対して明らかに過剰な状況になっている」ことを指摘している。
(http://www.kimurasec.co.jp/column/2007/column07-06.html)

この発表が行われた当時の北村氏の論調は、その現預金の余剰が必然的に低金利をもたらし、銀行セクターの収益にネガティブ・インパクトをもたらす、として、必ずしも肯定的に捉えてはいない。だが、今回のような信用収縮による金融危機の状況であれば、キャッシュ・リッチな日本の状況に悲観的な見方ばかりをするべきではないだろう。

すなわち、現金比率が高い国ほど、信用を基にした、「レバレッジ型金融ビジネス」の比率は低くなるわけだが、その分、金融をとりまく環境が反転したときの信用収縮の影響は受けにくい。他方、「Debt調達・Equity投資」を得意とした、近年の投資銀行型ビジネスモデルは、現金比率が低い分、信用収縮の結果、デレバレッジが進行すると、あっという間に駄目になってしまう。

現在、円はいずれの通貨に対しても強含んでいるが、これは裏付けとなる現金の比率の高さが通貨の価値を支えているわけである。

先の北村氏は、当時、

現金の多さ→低金利→キャリートレードの活発化→円安

というフローをなると示唆しているのだが、

今回の金融危機においては、

現金の多さ→(他の通貨の利下げを受けて)相対的な金利の上昇→キャリートレード解消→円高

という逆転を生んでいる。

これはとりもなおさず、レバレッジ全盛期では評価が低かった国民による蓄積された預貯金が、逆にこの厳しい状況で海外投資家より評価されているという意味では、現在の円の評価は政界、官僚、産業界の努力の賜物とは言い難い。やや酷かもしれないが、昨今の株価低迷を考えると、金融を含む産業界の勢いのなさが目立つともいえる。

さて、今週は、12月2日(火)の豪準備銀行、12月4日(木)の欧州中央銀行、イングランド銀行、ニュージーランド準備銀行といった中央銀行の発表ラッシュである。市場では、オーストラリアが1%の利下げ、その他が0.5~1%の利下げという見方のようであるが、順当に考えられば、やはり円高に動くと見るのが妥当であろうか。目が離せない1週間になりそうである。

K

2008年11月23日日曜日

Investment strategy under deflation

最近、気になっているトレンドはデフレである。

ご存じのように、デフレとはモノの価格の低下することだが、Wikipedia日本語版によれば定義は以下のとおりとなる。

デフレーション(deflation)とは、物価が持続的に下落していく経済現象を指す。物価の下落は同時に貨幣価値の上昇も意味する。同じ金額の貨幣でより多くのものを買えるようになるからである。なお、株式や債券、不動産など資産価格の下落は通常デフレーションの概念に含まない

この夏までは原油高騰などもあり、インフレが騒がれたが、ここ最近、一転、デフレを警戒する声が出始めている。

まず、イングランド銀行の総裁である、Mervyn King氏のコメントを引用した、Financial Timesの記事から紹介したい。

“Mr King also declined to rule out the possibility of deflation. However, he said “there is a great likelihood” that RPI inflation – a rate which includes a measure of housing costs – will turn negative next year.”
(”Bank predicts deep recession next year”, Vanessa Houlder and Norma Cohen, November 12 2008 16:42)

来年には、イギリスにおける住宅価格の数値がマイナスになることを示唆している。

また、これを書いている最中に、イギリスの消費者物価が下がったとのニュースも届いている(” Consumer inflation falls to 4.5%”, BBC NEWS, November 18 2008)

“The Consumer Prices Index (CPI) measure dropped to 4.5% from 5.2% in September.”

続いては、今月9日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議での声明から(Nikkei Net 11月10日「世界同時デフレへの危機感共有 G20会議」)。

“日米欧の主要国と新興国が「グローバルデフレ」への危機感を共有した。(中略)共同声明で「インフレ圧力が減少した」と指摘し、議長国ブラジルのマンテガ 財務相は「デフレへの懸念が強まった」と語った。”

また、アメリカにおいても、原油価格の値下げから、今後の不良債権処理も加わり、デフレが懸念されているとのことだ(日本経済新聞 10月30日「米、デフレ懸念が浮上、原油安で物価下落基調、低金利継続の環境整う)。

“米国で物価の継続的な下落を示すデフレの懸念が浮上してきた。原油価格の急落を主因に八月から輸入、卸売りの各段階の物価が前月比でマイナス基調に転じ、消費者物価はほぼ横ばいとなった。景気低迷や金融機関の不良債権処理が物価を一段と抑える可能性も膨らむ。米連邦準備理事会(FRB)が低金利政策を継続する環境が整ってきた。

 米労働省によると、輸入物価指数は八月に季節調整済みの前月比で二・六%、九月は三・〇%の幅でそれぞれ下がった。九月は石油以外にも工業用原料、自動車、消費財、飲食料などが軒並み低下。ドル安だけでなく需要の減退が響いており、卸売物価でも原材料の値下がりが急だ。
  メリルリンチの北米エコノミスト、ローゼンバーグ氏は二十七日公表したリポートで「次のマクロ経済の課題はデフレだ」と主張。住宅の値下がりや金融の収縮、雇用の悪化などもデフレに働くと指摘し、今は前年比でプラスの消費者物価指数が「マイナスになるのも時間の問題」との見方を明らかにした。
 一方、アトランタ連銀のロックハート総裁が「エネルギーと商品の値下がりでインフレ圧力はさらに後退する」との判断を示すなど、日ごろはインフレに敏感なFRBの関係者からもデフレ傾向への転換を示唆する発言が相次いでいる。

 米国の最大の課題である不良債権の処理も、担保となる不動産などの売却を迫る過程で物価を下押しする要因になる。原油価格が再び高騰するなど事態が急転しない限り、米国の物価の弱含みはしばらく続く見通しだ。

  金融政策も今後、デフレ対応が迫られそうだ。FRBのバーナンキ議長は日本のデフレに関心を持ってきた。二〇〇二年の講演で、克服に手間取った日本と対比 し、金融システムの安定性や経済の柔軟性を理由に「米国で顕著なデフレが起きる可能性は極めて低い」と述べたこともある。

 今は金融危機と景気後退の懸念が米国を覆い、かつて議長が挙げた前提は崩れた。利下げ観測にさらされる議長が担当外の財政出動を伴う景気刺激策を促すのも、需要不足がデフレを招く危機感のためだとみられる。”

そういったなか、どういう投資スタンスで臨むかは考えどころである。

一般的にデフレ期には土地や株式の価格が下がる一方、国債の価格は上昇する。そういったデフレ時に向けた投資のセオリーに則れば、通貨(特に為替リスクのない「円」)、もしくは国債への投資への投資へとウェイトを移すべきかもしれない。そうなれば、選択できるオプションとしては、以下のとおりであろうか。

・円建て預貯金
・(デフレ時には金利が下がり、債券価格(日本国債)が上がるという前提で)債券へ投資
・余裕があれば、日本国債など債権の「買い」に加え、下向きになる景気を見越して株式先物の「売り」を組み合わせる

余裕資金次第で、しかも、デフレへの移行の見極めが難しいが、これがデフレ移行期の投資としてはベストではないかと思う。

デフレへの脱却は半年から1年くらいのレンジで考えるべきだと思うが、その底値を見極めたらデフレからインフレに向かう移行期を見越す前提で、藤巻健史氏が推奨している、(デフレ期で)お買い得になった土地や株式を買い、国債や現金は売る、という戦略となるだろう。

下記のWebは参考になるので、参照されることをお勧めして、今回のBlogは終えたいと思う。

藤巻健史プロパガンダ 最新記事:
http://www.fujimaki-japan.com/propa/200811673336.html

FXスワップ派サラリーマンのまったり資産運用:http://salarymanmoney.blog79.fc2.com/blog-entry-615.html

K

2008年11月4日火曜日

Shanghai



先の3連休にプライベートで上海に行ってきた。中国は何回か訪れているが、上海は初めてだった。

すっきりと晴れた日はなく、雨なのか煙なのかわからない空模様だったが、それが却って神秘的に見えた。

街は高層ビルが立ち並ぶ浦東地区のような一角がある一方で、低層で昔ながらの建物が建つ古い街並みも残ってはいる。

ただ、これも万博が開かれる2010年には、ずいぶん、変わっているのかもしれない。


旅行先では、英語で読める地元の新聞を読むようにしている。

今回は、ホテルの部屋にデリバリーされた「Shanghai Daily」(http://www.shanghaidaily.com/)に目を通した。これはWebでも無料で読めるので、興味のある方は、ぜひ、ご覧いただきたい。上海現地のニュースはもちろんわかるし、世界のニュースも確認できるので、とてもコンパクトに情報がまとまっている。とても便利な新聞だ。

訪問期間中に特に印象だったのは、上海市長がホスト役を務め、世界の一流企業のエグゼクティブを集めたミーティングに関する記事だ。
(「Mayor to global CEOs: help us grow Shanghai」: http://www.shanghaidaily.com/sp/article/2008/200811/20081102/article_379166.htm)

まず、上海市は、中国における「直轄市」となっており、中国の「省」と同格、日本でいえば「県」のような位置づけとなっている。

また、人口は、中国国内で重慶に次ぐ第2位(1,857万人、2007年末)、一人当たりGDPは深圳市、香港に次ぐ水準(2008年推定で13189米ドル)とのことだ。

とここまではだいたい想像がつきそうであるが、驚くべきは、先の記事における招待客の顔ぶれである。

・Pricewaterhouse Coopers LLP Samuel A. DiPiazza CEO
・ABB Ltd. Joseph M. Hogan CEO
・Investor AB Jacob Wallenberg Cairman
・University of ColumbiaのSach教授

など

実業界から教育界までそうそうたる顔ぶれだ。

これら世界のVIPを相手に、Han Zheng上海市長がホスト役として会議を取り仕切るわけである。

内容はといえば、翌日のShanghai Daily(http://www.shanghaidaily.com/article/?id=379242&type=Business)を見る限り、上海の今年の経済発展の状況や、昨今の世界経済を見据えたうえで、今後の上海の経済見通しについて語るといったことで、特筆すべき内容ではないかもしれない。

ただ、こういうイベントでひとりの地方行政の首長が世界のVIPを招待できることに驚くとともに、日本からの参加は一人もいない、という状況にさみしさを憶える。

逆に、日本の地方の首長で、これだけの催しを取り仕切れるトップや団体がいるであろうか?

これは、単なるひとつのイベントだといって軽視はできないだろう。

こういったイベントを行うたびに、確実にエグゼクティブ・レベルの交流は深まるし、今後、ビジネスの連携の可能性が出た時に、確実にポジティブに左右するだろう。

こうしたしたたか、かつ、たくましい中国のアプローチをみるにつけ、いつの間にか、日本はいつか蚊帳の外で生活を営んでいました、という状況になるのではと危惧する次第である。

K

P.S.

下記YouTubeのサイトで今回の旅行の様子を紹介しているので、興味のある方は、ご覧いただきたい。

http://jp.youtube.com/watch?v=yGlkamL3gUw