2009年2月27日金曜日

Anxiety about the U.S. economy

先週末は、Blogで年明けにまとめた「Winners and losers in the IT industry」を英語版として、一本のレポートにまとめる作業をしていたために、投稿を見送らせていただいた。毎週、定期的に私のBlogを読んでいただいている方には、ここでお詫びを申し上げたい。なお、そのレポートにご興味のある方には、個別にPDFファイルで差し上げますので、直接、メールでお知らせくださればと思う。そして、レポートに関するご質問やご意見をどんどんお寄せいただければ幸いである。

さて、今週のトピックスであるが、アメリカでは17日に総額7,870億ドル(約72兆円)の景気対策法案が成立したことで、この法案による対策が今後のアメリカ経済の下支えを行うものと期待されている。ただ、以前のBlogでも触れたように、アメリカで金融危機を発端とした証券関係の損失規模は4.3兆ドル(約400兆円)、刺激策の6倍弱の規模と試算されている。今後の景気の動向次第では、優良債権と見られていた債権も不良債権化する可能性もあるから、後手に回った場合のリスクは甚大と言わざるを得ない。

それにしても、最近、アメリカから聞こえてくるニュースは、厳しいものが多い。主なヘッドラインと概要をまとめると、以下のとおり。

1. GM再建続く綱渡り、10-12月、資金流出6,000億円(2009/02/27, 日本経済新聞)

・‘08年12月末の手元資金の残高は140億ドル。つなぎ融資で昨年末までにまず40億ドルを得ており、これがなければ手元資金は同社が最低限の運転資金として必要としていた100億ドル前後の水準まで目減りしていたことになる。さらに今年1月は、(中略)政府からの追加融資がなければ資金ショートに陥っていたとみられる。

・ GMは今月17日に米政府に提出した再建計画で最大166億ドルの追加支援を要請、’12年から政府融資の残高が減少に向かうと予測した。だが、その予測はGMが米国で20%前後、世界で12~13%とほぼ現状に近いシェアを維持するのが前提。直近の状況をみる限り、その前提は非現実的と言わざるをえない。

2. 米政府、シティを事実上の管理下に 普通株36%保有(2009/02/27, 日本経済新聞)

・ 米財務省は27日、米大手銀行シティグループへの追加支援策を発表した。公的資金注入の見返りとして現在保有している優先株のうち、最大250億ドルを議決権のある普通株に転換。事実上、公的管理下に置いて再建を図る。シティ側の発表によると政府は普通株の約36%を保有 する。

3. 米加州で公務員20万人一時帰休 財政破綻危機の支出削減で(2009/02/7 共同通信)

・ 米カリフォルニア州は6日、支出削減のため陸運局や保健所などで働く公務員20万人以上を対象に、毎月計2日の無給の一時帰休を2010年6月まで課す制度を始めた。

・ シュワルツェネッガー州知事は昨年12月に財政危機を宣言。今年2月か3月には州の資金が底をつくとし、‘10年6月には歳入不足が420億ドル(約3兆9,000億円)に達するとの見通しを示している。

4. 12月の米住宅価格、下げ幅最大 S&P指数、10都市で19.2%(2009/02/24 日本経済新聞)

・ 格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが24日発表した昨年12月の「S&Pケース・シラー住宅価格指数」は主要10都市の平均で前年同月に比べ19.2%下がった。下げ幅は1987年の調査開始以来、過去最大を更新した。同時に発表した昨年10―12月期の全米レベルの指数は18.2%下がり、これも四半期でみて過去最大の落ち込みとなった。

・ 指数の生みの親であるエール大学のロバート・シラー教授も「さらに 10―15%下がる」とみる。市況の底入れは10年以降にずれ込むとの見方が大勢だ。

基幹産業で一時代を築いた優良企業の実質的な国有化、全米最大の経済規模である州の財政破綻、継続する資産デフレ…現状打破に向けた、アメリカ政府への負担は重い。資本主義の“顔”であるアメリカにおいて、これだけ公共政策が重要となる局面もめったにあることではない。その意味では、金融危機のさなかに行われた大統領選挙で民主党から大統領が選ばれたのは決して偶然ではないだろう。

一方で、こうした厳しい状況のさなかで、不思議なことにドルが他の通貨で強くなっている。昨年後半において、他国から多くの買いを誘った円に対してですから、ドル高になっている。この状況をどう見るべきか?ドルの潜在力の力強さとみてアメリカの急回復の先駆けと見るべきか、それとも、ドル高は投資資金の換金売り・現金化によるもので、ますますの景気悪化の前兆とみるべきか…ここ最近の上記のようなニュースや今週のDowやS&Pの下がり具合をみるにつけ、後者であると言わざるを得ないのではないだろうか。

もし、ますますの景気悪化の予兆とするなら、輸出主導型の日本経済にも警戒すべきと考える。特に自動車や電機といった、米国依存度の高い産業セクターの不振はしばらく続くものと予想される。そうなると、輸出産業に従事する人の消費動向にも影響を与えるだろうから、商品・サービスの高級志向は弱まり、いままで以上に価格競争力のある商品・サービスを提供できる企業への支持がより顕著になるだろう。小売や外食への比重が高まる一方で、そのなかでも格差が鮮明になるだろう。

アメリカの先行きに強い不安を感じるが、同時に今後の動向にも注目する必要があると考えている。

K

2009年2月14日土曜日

Winners and losers in IT Industries <Conclusion>

これまでのIT業界の「勝ち組」企業の業績を振り返って、その強さの秘密を整理したいと思う。

結論から言えば、「勝ち組」企業は、製造業である第2次産業という括りを抜け出し、サービス産業に半歩踏み出した「第2.5次産業」(=「サービス製造業」/「Serviced manufacturer」)ともいうべき事業スタイルを確立しているところに不況に負けない強さの秘密があるといえそうだ。

マーケティングの観点から製造業にサービス的な発想が必要と説いたTheodore Levitt博士の「Marketing Myopia」(=「マーケティング近視眼」)的な発想から、実際にサービス事業を売上・利益に貢献させられる製造業に発展させたとも言えるかもしれない。

業種は異なるが、同様に製造業におけるサービスを模索し、金融事業で底入れしてきたGMやGEが、昨今の金融危機で打撃を受けているのとも一線を画す。

IT業界の勝ち組であり、また、「サービス製造業」として高業績を裏付ける特徴を2点ハイライトしたいと思う。

まず、ひとつ目はサブスクリプション売上の存在だ。

「サービス製造業」とはいえ、IBMとAppleの2社の間でもサービス事業の売上比率は開いており、全体売上のうち、IBMが80%、Appleで 20%前後くらいがサービス事業と想定される。そうした違いがありながらも良い業績が残せるのは、サブスクリプション売上のお陰だ。

先に触れたように、IBMの売上の40%、利益の60%は、ライセンスや契約ベースで定期購入される商品・サービスであり、また、Appleでは売れ筋の iPhone(含むAppleTV)を契約期間に按分して売り上げを計上する「サブスクリプション・アカウンティング」を採用し、2年間に分割して売り上げを計上している。

こうしたサブスクリプション売上が両社の売上と利益を下支えしており、景気に左右されない業績を残せているのだ。

2つ目は、身軽な組織体制で高い収益を上げている点だ。

通常、製造業は工場などの生産設備を使い、商品を製造している。そのため、製造業は、製造設備の分、バランス・シート上のアセットは重くなり、かつ、減価償却費による資産の費用化により、収益も圧迫させられる。また、一度、そういった設備を持ってしまうと、そこで働く人の問題も含めて容易には事業活動を変更したり、やめたりできない。よって、事業を行うにあたっては、それなりのコミットメントが求められる。

その点について、今回の「勝ち組」2社はどうだろうか?下の表をご覧いただきたい。総資産、有形固定資産、純利益の各データは、昨年9月末までの直近4四半期分の数値を平均して算出している。また、ROAについては、昨年末時点の数値を参照した。



総資産に占める有形固定資産の割合はIntelが最も多いものの、ソニーはちょうど、IBMとAppleの中間くらいの規模であるため、総資産に占める有形固定資産の比較では傾向は伺えない(1)。また、総資産の活用の効率度を確認するROAも、この年末時点でソニーは極端に低いが、逆にIntelが「勝ち組」2社を上回っている(2)。さらにもうひとつ突っ込んで、有形固定資産がどれだけ効率的に売上を生んでいるかをみるために、売上を有形固定資産で除した数値も算出した(3)。ここで「勝ち組」と「負け組」の業績を明確に分かれ、圧倒的に「勝ち組」の数値が高くなった。IBMはソニーに対して約3倍、インテルに対して約2倍、Appleはソニーの9倍弱、Intelの5倍強の効率が高いことになる。

ここで触れた2つの観点を基に、さらにIBMとAppleの特徴を分析してみたい。

主たる対象マーケットは、IBMがB2B、AppleがB2Cといえ、違う「土俵」で事業を行っていることになるが、両社ともに好業績を残しており、B2BかB2Cかということは大きな要因にはならないようだ。

次に、サービス事業の比率であるが、先に触れたようにIBMは8割、Appleが2割で大きな差がある。これだけみると、Appleのほうがハードウェア主体のビジネスと言えそうだが、実は総資産に占める有形固定資産の比率でみると、AppleはIBMの半分しかない(IBM:12%、 Apple:6%)。ここから、Appleにおいて製造のアウトソースが進んでいることが伺え、それは有形固定資産に対する売上がIBMの倍以上(IBM:20%、Apple:53%)であることで裏付けられる。いいかえれば、Appleがメーカーでありながら、製造はほかに任せ、自身はデザインやアイディアなど分野で強みを発揮しようとしていることがわかる。Appleとともに、製造業の雄としてマスコミで取り上げられている任天堂も含めて、ここに、メーカーのあるべき一つの理想的な姿があると言えそうだ。

さらにいえば、Apple内でiPhoneやAppleTVが、今後、サブスクリプション売上がさらに伸びていけば、収益の安定化にさらに磨きがかかることになるため、日本の家電メーカーは、一層、差をつけられそうだ。

やや意外だったのが、IBMとIntelの売上:有形固定資産比率をみたときに、IBMのほうの数値が高かったことだ。単純に考えると、IntelのほうがIBMよりも製造自体をアウトソースしている比率が高いともいえそうだが、こちらは、慎重に確認する必要があるかもしれない。

勝ち組企業の特色をハイライトするために下記のレーダー・チャートを作成した。このチャートには、純利益率、有形固定資産に対する純利益率、ROA、有利子負債を営業利益で割って算出する債務償還年数、従業員一人当たり純利益額、ROEを業績指標としており、外側にポイントがあるほど、その指標の業績が良いということになる。



このチャートをみると、勝ち組の特徴として、ROEの高さから株主資本を有効に使っていることがわかる。また、有形固定資産が利益創出に向けて有効に使用されていることも垣間見える。なお、Intelはいくつかの指標では良い指標であるものの、昨年の10-12月期で業績を安定させることはできなかった。


以上、4週間にわたってIT業界の「勝ち組」と「負け組」を分析してみた。皆さんの印象はどうであっただろうか?率直なコメントをお寄せいただければ幸いである。

K

2009年2月7日土曜日

Winners and losers in IT Industries <2> -Apple

会社に入社したての十数年前、AppleのMacintoshを持つということはそれなりのステータスで、冬のボーナスと身内から借りたお金で最初にMacを買ったときは、このうえなくうれしかった。




でも、今の20代の方は、Appleといえば、Macというより、iPodやiTuneの印象のほう強いだろうか。これらのポータブル・オーディオ製品とサービスは、若い人の「Way of Life」を変えたと言っていいだろう。そのために、痛手を負った日本の電機メーカーも数知れず。。。




そして、その「i」カルチャーは、ついに携帯電話に進出した。日本でも昨年、Softbankの携帯電話端末としてリリースされた。Mac世代からすると、iPhoneなんて、まだ、「ひよっこ」くらいの印象しかないが、このiPhoneが、今や、Appleの牽引役となっているのだ。
iPhoneは、「Apple computer Inc.」から「computer」が抜け、「Apple Inc.」にさせた象徴的な商品だ。

先のIBMと同様に、Appleの事業内容を商品ごとに見ていただきたい。

<事業別売上構成>



<事業別売上成長率>



どの商品がどれくらいの割合が占めているか、というのに、サプライズはあまりないであろうが、成長率については、驚かれる方も多いのではないか。実は、Appleの成長を担い、この未曽有の不景気に負けない業績が残せているのは、このiPhoneのお陰といっても過言ではない。

売上高で10%そこそこの商品が、なぜ、そんなに影響力をもっているのか。実は、会計システムが多分に影響している。下記は、CNET News.comのTom Krazit氏の記事。iPhoneを巡る会計処理と、Apple全体における事業インパクトが読み取れる。

「Appleでは、サブスクリプションベースの会計処理方法を使って、iPhoneとApple TVの(将来にわたる)売り上げから売上高を想定している。
(中略)
iPhoneのすべての売上高は24カ月間で計上されることを発表し、iPhoneのソフトウェアアップグレードを無料で提供できるようにした。
(中略)
 この会計処理の問題点は、iPhoneの販売に関連する売上高の大半が先送りにされるため、販売されてからかなり時間が経たないと、そこからいくらの売上高および利益が生み出されているのかを投資家が判断するのが難しいということだ。しかも、Appleは、iPhoneの販売に関連するエンジニアリングおよびマーケティングの費用については24カ月間ではなくその費用が発生した四半期で計上しなければならない。」
(「「iPhone」がアップルの最重要製品になった理由--第4四半期決算を読み解く」よりURL: http://tb.japan.cnet.com/tb.php/20382535 )

お分かりであろうか?iPhoneの売上は、米国公認会計士協会の意見書「SOP97-2」に従い、契約期間に按分して売り上げを計上する「サブスクリプション・アカウンティング」を採用し、2年間に分割して売り上げを計上している。つまり、2008年2月に399ドルのiPhoneを1台売って、2008年9月期決算で計上できる売り上げは399ドル×8/24カ月で133ドルとなる(引用元:「iPod Touch 有償アップグレードの不思議 経済のサービス化で変わる売り上げの計上基準」杉田 庸子氏 著/URL: http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20080221/147767/」)。このため、一時的な経済環境の悪化などの外的要因には左右されないしくみになっているともいえる。しかも、SGAとしてカウントされるマーケティング費用は発生月で処理されるのであれば、あらかじめ予測された売上の範囲で、費用をコントロールすることも可能であろう。

対称的に、アメリカでiPhoneを採用している携帯電話会社のAT&Tは、iPhoneを200ドルで支給するために、Appleに支払った補助金が利益を圧迫し、その他の費用も加わって、前年同期比で減益となったと発表している。ただ、これもiPhoneユーザーが、インターネット閲覧などよりデータサービスを利用するという皮算用があってこその支援である。

強い商品力と決算期毎にブレない会計処理・・・他のIT企業との差はこんなところから出ている。Steve Jobs CEOの体調不良のために、今後の同社の先行きを危ぶむ声もあるが、そう容易にAppleの優位性は崩れそうにない。

K

英文会計の勉強には・・・