2009年11月29日日曜日

スペシャルドラマ『坂の上の雲』がいよいよスタート!

ドラマ『坂の上の雲』が今日から開始される。

本作品の原作者である司馬遼太郎氏から著作権を継承された妻の福田みどりさんからドラマ化の許諾を得て、NHKがドラマ化の発表を行ったのが2003年1月。

当初、2006年度の放送予定だったらしいが、脚本を担当されていた野沢尚さんの自殺などにより放送が延期され、今日に至ったという背景がある。

そして、発表からおおよそ7年近くの年月が経った。。。


本作品については、造詣が深い。

社会人になって数年が経ってから原作を読み、深い感銘を受け、それ以降というもの、いろいろと影響を受けた。

原作の舞台である、中国・二百三高地や広島の海軍兵学校跡を訪れたりもしたし、そして、これは偶然でだが、物語の主人公のひとりである、秋山真之氏が日本海軍の観戦武官として訪問していたアメリカ・フロリダ州タンパは、私が本格的なアメリカでの留学活動に備えるため、ホームステイをしていたところだったりする。

ちなみに、秋山真之氏は、日清・日露戦争に参戦、特に日露戦争で東郷平八郎の参謀役を務め、活躍されるわけだが、それ以前は、イギリスやアメリカに留学し、研究活動を行っていた。

秋山真之氏は、私のロールモデルの一人である、留学時、ハードな勉強にめげそうなときは、本棚に飾った秋山真之氏の写真を見て、自身を励ましたりしていた。


ただ、この作品は日本の近代の戦争史につながる舞台背景があるため、見解が分かれる作品でもある。

作者である司馬遼太郎氏ですら、「ミリタリズム(軍国主義)を鼓吹(こすい)しているように誤解される]」として、唯一映像化を拒んだ作品とされているし、訪問した二百三高地のガイドからは、長らく中国で原作本は発禁されていたと聞かされた。

しかも、ドラマが発表された2003年当時の政治や国際的な背景に加え、本作品をNHKが放映を企画するというあたり、政治利用という側面も感じなくはない。


しかしだ。

だからこそ、司馬氏が本作品を含め、歴史小説を仕上げた動機を忘れてはならないと思う。

司馬氏は、第二次世界大戦に参戦された経験を持つが、その時の経験を基に、そのような戦争を行う日本への疑問と、「昔の日本人はもっとましだったに違いない」という想いで執筆に取り組まれたと聞く。

そのような想いを持たれていた司馬氏がギリギリ取り組める年代はこの作品までというわけだが、見方を変えれば、本作品は、いわば、その後迎える大変な時代に対するアンチテーゼだったと推測されるわけで、決して、過去の戦争を礼讃する意図などはなかったと推測している。

小説では、その後続く、大正、昭和という時代に、軍部の、いわば暗部ともいえる部分をどう引きずるのかも考察できるので、日本の組織行動様式を知る格好の材料であり、これを「反面教師」として活かせる分野は、何も戦争に関する課題だけではないと考えている。

映像化にあたって、どの程度、そのような部分が描かれるのかはわからないが、いずれにしても、期待したい作品である。

K


■送料無料■サウンドトラック CD【坂の上の雲オリジナル・サウンドトラック】09/11/11発売


坂の上の雲(1)新装版


坂の上の雲(2)新装版


坂の上の雲(3)新装版


坂の上の雲(4)新装版


坂の上の雲(5)新装版


坂の上の雲(6)新装版


坂の上の雲(7)新装版


坂の上の雲(8)新装版

2009年11月28日土曜日

高速道路の原則無料化をどう考えるべきか?

JALと年金問題のトピックスは、もう一回、スキップさせてもらって、トピックスが陳腐化しなうちに、高速道路無料化のことをまとめてみたいと思う。

本件については、政権交代直後は、子供手当と並び、メディアでは結構な頻度で取り上げられていたが、最近、やや落ち着いてきた感がある。

結果的に、それ以上の難問があるが故に、相対的にそうなってしまっているということか。。。


今月初めに、この件を改めて考えさせられるイベントが、海の向こう側であった。

アメリカの著名投資家 Warren Buffett氏が経営する投資会社Berkshire Hathawayが、アメリカの鉄道大手Burlington Northern Santa Fe Corporationの買収を発表したのだ。

Buffett氏といえば、事業の本質的な事業価値に比べて、株価が安く放置されている会社に長期投資を行う、バリュー投資で莫大の富を築いた投資家として有名である。

ITバブルのさなかに、天井知らずな株価をつけるIT企業にはいっさい目をくれず、成熟期を迎えた企業への投資スタイルを崩さなかったので、「Old Economy」好きともいわれる。

一方で、慈善事業に熱心だったり、昨年の金融危機の際は、ゴールドマン・サックスやゼネラル・エレクトリックといったアメリカを代表する会社に対して救済ともとれるような投資も行い、アメリカの実業界の救世主的存在にもなった。

そのBuffett氏が、今度は鉄道会社に対して、過去の投資と比べても多額の投資(340億ドル≒3兆円弱)を行う。

その理由は明快だ。

「私は基本的に米国が繁栄すると信じています。今から10年後、20年後、30年後には、より多くの人がよりたくさんのモノを移動させるはずです。その時、恩恵を受けるのは鉄道です。私は米国に賭けているのです。」

海の向こうの偉大な投資家は、祖国への強い想いとともに、今後の成長の活力となる、移動手段には、鉄道が大きな役割を担うとみているのだ。


今年4月に、Barack Obama大統領は、主要都市を繋ぐ、80億ドル規模の高速鉄道の建設計画(今後5年間、毎年10億ドルずつを投資する計画)を発表。

こういった国の政策も睨んでのことだとは想像に難くないが、一方で、これだけ環境への関心が大きくなり、原油価格上昇への不安感から、公共の輸送網として、鉄道の役割が大きくなるだろうという見通しも、至極、最もなように感じられる。


国の発展に高速鉄道の役割を期待するアメリカに対して、日本はMotorizationの活性化のほうが優先順位が高いようだ。

それは、原則、高速道路料金の無料化の政策に見てとれる。

私は、この政策のブレーンは山崎養世さんという方だと睨んでいる。

山崎氏は、大和証券、ゴールドマン・サックスなど金融の世界から一転、徳島県知事を目指し、選挙に臨んだ経歴を持つ方で、当選はできなかったものの、「高速道路無料化」、「郵政資金の中小企業への活用」といった持論は、2003年11月の総選挙における、民主党のマニュフェストに採用された。

今年の総選挙での民主党のマニュフェストの「高速道路無料化」は、それ以来、脈々と残ってきたものだ。

本件に関する氏の持論を大ざっぱに説明すると、「高速道路無料化」は、東京への一極集中を改めるとともに、大都市輸送料金を引き下げ、結果的に、地方への人の流れが活性化し、地方都市の経済発展に役立つ、という構図だ。

そのヒントになっているのは、実はアメリカのフリーウェイであり、原則、「フリー」(=無料)の高速網が、中核都市の形成を後押しし、ほどよく地域経済が分散化されたのだと分析されている。


先週末に、京都を訪れた際に、のぞみ(N700系)に乗ったが、その乗り心地の快適さもさることながら、移動時間も短縮されていたことに、改めて新幹線の威力を思い知らされた。

今月は、そうした鉄道関連産業の競争力を感じさせるニュースがいくつかあった。

1)JR東海は、アメリカ、イギリス、インドなど外国の在日大使館員や鉄道業界関係者らを乗せて、米原―京都間で営業運転より速い時速330キロを出すデモ走行を行い、新幹線をアピールしたという。

中日新聞によれば、アメリカ・テキサス高速鉄道協会のロバート・エクルス会長は「(高速時も)滑らかな乗り心地だった。TGVや中国・上海のリニアにも乗ったが、高速鉄道市場で競争力があると思う」と話したという。

加えて、JR東海の葛西敬之会長は米国のコンサルティング会社と契約し、販売先候補先を調べていることを明かした。同社幹部によると、高速鉄道構想がある米・テキサス州とイリノイ州周辺が現段階で有力ということだ。


2)日立がイギリスで鉄道事業の大型受注(=総事業費1兆円)したこと、また、川崎重工業が、アメリカで路面電車を開発したことが明らかになった。

24日付の日経新聞では、モノや人の輸送手段を航空機やトラック、乗用車から鉄道や船に切り替えて、環境負荷の低減に役立てる、「モーダルシフト(Modal Shift)」というトレンドを紹介しながら、このニュースを報じた。

これらニュースを聞いて、台湾の新幹線の運用が日本の会社によってサポートされていたことや、VirginのBranson氏がVigin Trainsを始めたのは、日本の新幹線に乗ったことがきっかけだったことを思い出した。


こういったニュースに前後するように、ついに、17日に、前原大臣は、来年度予算概算要求に盛り込んだ高速道路無料化の社会実験費用6000億円について「しっかり見直していく」と述べ、今後の予算編成過程で減額があり得ることを示唆した。

「事業仕訳け」といった予算削減の流れも意識してのことだろうが、国土交通大臣の見直し発言は、重みがあるだろう。


そもそも、都市と都市を結ぶ高速交通網は、その拠点となる都市において経済活動の裏付けがない限り、活性化しようがない。

交通網がその経済活動を後押しすることはできようが、交通網自身が経済活動を活性化させることはなかなか難しい。

道路建設という手段はあるが、そういう土木事業を起点とした経済発展に見切りをつけたところに、民主党政治の意義があるのだろうから、それを今更掘り返しても仕方がない。

運送費が下げられるというメリットもあろうが、それも輸送の発端となる経済活動が停滞したままでは、十分にそのメリットを享受できないだろうし、渋滞という副作用を生みだすことも念頭に置かねばなるまい。

例えば、エコカー減税対象車のみ高速無料化として、環境対策と自動車業界へのプラス効果を図る政策変更もあり得なくはないだろうが、対象車種を限定することによって、無料化のインパクトがどこまで図れるかははなはだ疑問である。

それよりも、高速鉄道関係産業をさらに強化して、国内のみならず、海外も含めて、輸送網強化や環境改善に貢献するほうが、よっぽど、経済効果があるように思う。

こうして考えると、環境対策や現状のインフラの効率化を図る上で、高速道路無料化よりも、高速鉄道促進のほうにAdvantageがあるような気がするが、みなさんはどう思われるだろうか?

税金というかたちで我々も国に「投資」しているので、納税者という投資家として、どちらに賭けるかという視点で考えてみるのもいいかもしれない。

K

2009年11月23日月曜日

ちょっとひとやすみ ~ 京都への小旅行

今回は、いままでの話題をひとやすみしてこの休み中に行った京都のことをトピックスにしたい。

実は、私の引越し回数は、結構、多い。

しかも、親は「転勤族」ではなかったので、高校までは引越しらしい経験はなかったのだが、高校を出て以来の年数を引越し回数で割ると、1年に1回、引越しをしてきた計算になる。

なかには、1年間に3回引越したこともあったので、実際、毎年引越しはしていないのだが、3年同じところに住めば長いほうであることは確かだ。

勉学のため、転勤のためと引越しの理由は様々だが、それぞれの街で、いろいろな経験をしたので、実家以外に第2、第3のふるさとのようなところが、海外も含めて、いくつかある。

京都は間違いなくそのひとつだ。

京都は、学生時代に4年間、過ごした。

実家以外での初めての一人暮らし、それまで、勉学以外は、ほとんど野球に時間を割かれていたので、ほかの高校生に比べれば、随分、初心な状態で京都に住んだわけだ。

DSC00149_圧縮.jpg
(京都での初めての下宿先。まだ、ありました!)

DSC00150_圧縮.jpg
(この外套の下でよくバットの素振りをしてたんです...懐かしい)

実家が関西ではない私にとって、最初は、言葉はもちろん、知らないうちに軒先に上がってくるような人間関係の距離感にかなり戸惑った。

でも、ほとんど親戚や友人もいない環境からのスタートだったので、却ってそれが心地よく、直に気にならなくなった。

それと、関西のなかでも、京都特有なのではないかと思うが、「粋」という表現が似合うところである。

古くからの建物もあるので、街並みは極端に華美に凝らず、規制もあってこれでもかという高い建物はない。

でも、さりげなく、おしゃれで、それに気づくと、見入ってしまう。

それに、京都の人は、苦労をさも苦労したようには決して話さない。

「そんなこともあったなぁ」(文字でイントネーションが再現できないのが残念)をなんて、さりげなく言われるが、よくよく聞いていると、それってちょっと大変なことなんじゃない?と、振り返って思うことがよくある。

そして、何よりも、私が京都に行って良かったと思うのが、失敗しても、また、チャレンジすればいいじゃない?というスタンスを、身を持って学べたこと。

これは、周囲の人たちに恵まれたせいかもしれないが、失敗したことを責められたことがほとんど記憶にない。

むしろ、温かく応援してもらったことのほうが多いと思う。

特に、大学のクラブ活動でそんな経験をたくさんさせてもらった。


冒頭の話に戻るのだが、そのクラブのOB会なるものが、毎年、この季節に開かれるので、可能な限り、参加するようにしている。

その会は、私にとって、とても貴重な集まりだ。

年々、自分との年齢が離れていく(悲しいです…)現役部員と話せる貴重な機会で、彼らと話すと、いつの間にか彼らと同じ目線になって、年の差など忘れて話し込んでしまう。

そして、もうひとつのいいところは、今の自分のやっていることに「座標軸」を与えてくれることだ。

これは、一緒にクラブで、汗を流した先輩、同期、後輩と話すことで実感できる。

卒業後は、各々、別々の道を歩み、それぞれの生活を過ごす。

ただ、この会で、一旦、学生時代の人間関係に時間軸を戻せるので、素直に胸を張れること、まだまだ頑張らねばならぬと思うこと、そして、この部分は周りと比べてとんがっているなと思えること、などいろいろ見つめ直せる。

これは、日々の生活を共有している身近な人とは、分かち合えない感覚だ。

サラリーマンを辞め、自ら会社を作り、事業を軌道に乗せた後輩に、

「そろそろ会社を起そうと思うんだけどな」

と相談したところ、

「ちゃんと儲けが見込めてからでいいじゃないですか」

なんて諭される。

やりたいことはその後輩がやっているような、モノの売り買いじゃなくて、少し違う切り口のことなんだけどなぁ、と思っても、学生時代のその後輩との関係を振り返ると冷静になれて、むきになって説明することもなく、これ以上はこちらも軌道に乗せてから話をしよう、なんて素直に頭を切り替える。

そういう「座標軸」で自分のやっていること、やろうとしていることを見れるから、次はどういう方向で進めよう、と頭の整理が可能になる。

そんな楽しい会合を終え、一夜明けた昨日はお寺巡りをしながら、いい頭の整理ができたと思う。

また、来年、今の想いを進歩させて、話ができたらと思う。


P.S.

竜安寺にある、石庭と並ぶ、有名な一節。

吾唯足知_圧縮.jpg

「吾唯足知」(われ、ただ足るを知る)
I learn only to be contented.

元は仏教の教えとのことですが、「満足することを知っている人は、どのように貧しい暮らしをしていても心はとても豊かで幸せである」という意味とのこと。

なかなか考えさせられます。

DSC00108_圧縮.jpg
(竜安寺の石庭は、今、改修中)

2009年11月15日日曜日

JAL再建に見る日本の課題~レガシーコストにどう立ち向かうか?(3)

13日に発表されたJALの決算内容は、最終損益が1,312億円の赤字、本業の資金収支を表す営業キャッシュフローは400億円近い赤字、そして、手元資金は3月末に比べ4割減少、1,000億円を割り込んだという内容だった。

本業で稼げないために、「手持ち資金を取り崩して事業を続けている」(同社財務担当 金山佳正取締役)状況が浮き彫りになったといえよう。

決算前には、金融機関への債務返済を一時停止する事業再生ADR(裁判外紛争手続き)の申請、つなぎ融資を確保して事業の継続にめどをつけた。

これら一連の内容から、ナショナル・フラッグというネーミングからは程遠い「自転車操業」の姿が浮き彫りになる。


私がビジネス・スクールで戦略論を学んでいた頃、事業運営の原則として、教授から口酸っぱく叩き込まれたフレームワークがある。

π=p・q-k

π: 利益
p: 価格/単価
q: 数量
k: コスト

となるが、何のことはない、利益はどのように生み出されるかということで、

1) 価格/単価を上げる
2) 販売量を増やす
3) コストを減らす

という3つが重要だということだ。

これに現金の受け取りと支払いを表す資金繰りを反映させれば、さらに完成度が上がり、資金調達のためのコスト(利息や配当など。専門用語で「資本コスト」という)を上回る利益(=π)を出せれば、利益率は低くても事業は継続できるというものだ。

昨年の金融危機でパニックになったのは、実際の現場では、お金を調達する際、信用という要素が重要で、その信用の基準が崩れてしまったために、事業会社はおろか、お金の出してくれるはずの銀行間ですら、お金が回らなくなり、その混乱ぶりたるや、一時的に社債などの債券利回りが配当利回以上になるという、普通では考えられない状況に陥ったわけだ。

やや脱線したが、考え方をシンプルにするために、冒頭のフレームワークで今回のJAL問題を捉えてみたい。

なお、JALの年金問題について、年金を受け取る側の権利面から法律の観点から捉えるのは、他のブログやその道の専門家に譲りたい。

企業年金の受給権は私的財産権であり、受給者の権利保護の観点から本件を捉え、NTTやりそなホールディングスなどのケースを引き合いにして語るのもいいが、そもそも支払原資がなければ成立しないでしょう、という意識のほうが強いためだ。

話を元に戻すが、今回の年金原資はコストに含まれる。

これまでの約束どおりの年金を支払い続ければ、コストが上昇、利益が少なくなり、いまのJALの体力(=現金の保有額、もしくは調達能力)からいえば会社が存続できない。

そうなれば、今後の年金の支払いの見通しがつかなくなる。

よって、年金支払減額ということが言われるのだが、もうひとつの手段としては、年金を含む債務を切り離す、ということが選択肢もあるのかもしれない。

これは、現在のJRが民営化した際に、国鉄の債務を切り離し際にとられた措置で、現在、国鉄清算事業本部がその清算業務を引き継いでいるそうだが、年金が含まれる将来費用については、3兆円を国鉄清算事業本部、厚生年金移換金など7,000億円をJRがこれまでの負担分とは別に返済し、その残りは債務免除となったとのこと。

ただ、同様の債務切り離し、一部債務免除という処置ができるのかというと、今、議論されている内容では、JALへの税金投入が精いっぱい(しかも、その際、年金は減額が条件)なのでかなり難しい。

そうなると、年金原資の利益を増やすには、売上を伸ばすか、その他コストを大幅に削減するということになる。

ただ、これが容易に実現されるのであれば、これまでの苦闘もないはずで、少し発想を転換しなければならないのではないか。

売上のpとqを伸ばし、コストのkを減らす手法としては、海外のLow-Cost Carrier(LCC)とよばれる、格安航空会社の事業手法は参考になることが多いと思われる。

そのひとつが低コスト化を実現したうえでの地方航空の活用である。

ここでは、アイルランドのライアンエアが参考になる。

同社の徹底したコスト削減効果により、都市から離れた空港へのアクセスコストを上回る圧倒的な低運賃を設定することで、見放されていた地方空港へ旅客増が見込め‘Ryanair effect’を生み出しているという。

この結果、地方空港への交渉力が増すために、空港使用料も低く抑えられ、さらにコストが減るというポジティブなスパイラルを生んでいるそうだ。

見方を変えれば、不採算路線というのはあくまでも現在のコスト構造だから、という前提つきなので、現在の「不採算路線」も考え直す必要もあるかもしれない。

また、Virgin GroupのVirgin Blue参入の対抗手段として、カンタス航空は、JetStarというLCCを設立、成功事例になっているとも聞く。

いずれもコストを減らさねば成り立たない手法のため、間接人員の多いJALにとって高いハードルだと思うが、雇用といった組織制度面の折り合いをつけながら、携帯電話や電子マネーのさらなる活用による販売コスト削減といった生産性を上げるための施策を考え出さねばならないだろう。

以上のようなπの向上を目指す過程では年金支給額の減額も受け入れて再建をめざし、業績が向上した暁には、また、支給額の水準を検討するのが妥当ではないか。

こうした姿勢が、現役社員と引退されたOB・OGが連帯して取り組むということだと思うが、皆さんはどう感じられるだろうか。

次回は、このフレームを国の年金のほうにあてはめてみたいと思う。

K

2009年11月8日日曜日

JAL再建に見る日本の課題~レガシーコストにどう立ち向かうか?(2)

先週のBlogでは、昨今、取り沙汰されている日本航空の再建問題について触れ、その問題の本質が事業運営以上に年金負担にあること、そして、収入と負債のバランスが取れていない状況を日本の財務構造となぞらえることができるということを指摘した。

先週からのこのトピックスだが、JAL単体の問題を掘り下げるというよりは、JALが抱える事業構造が日本の予算・財務状況と酷似していることを踏まえ、同様の状況が起こったとき、もっと直接的にいえば、公的年金が危機に直面した時に、政府はどう対応するのかということを確認することに焦点を当てたいと思う。

JALは公開企業であるので、国の運営と性質として異なるのは十分に承知のうえであるが、ことここに及んで、事実上、JALが国の管理下に置かれていることは、つなぎ融資への対応、そして、6つの省庁と内閣府が絡む対策本部が発足されていることから明白だろう。

すなわち、JALの本質的な課題であるレガシーコストへの政府対応は、将来の日本のレガシーコスト(=年金)への布石と見てもいいだろう。

以上の前提で、先週の動きをおさらいすると…

・国内外16路線の運航を廃止: 12月から来年6月にかけて、グループの国内線8路線、国際線8路線の計16路線を廃止し、神戸やメキシコ、中国・杭州など5空港から撤退。企業再生支援機構に支援を要請中の日航は、公的支援を受ける見通しで、不採算路線からの撤退を加速させていく。

・冬の賞与カット: 全8労働組合に対して冬の一時金を全額カットする方針を伝えた。

・つなぎ融資への対応: 政府の日航再建対策本部は日航に融資をしている主要銀行に対し、日航支援に必要なつなぎ融資を要請。政府側が求めたつなぎ融資額は1千億円超。主力銀行のうち日本政策投資銀行やみずほコーポレート銀行は、政府が日航の企業年金削減や、日航が活用を申請した企業再生支援機構による支援決定の迅速化などを政府が確約することを条件につなぎ融資に前向きな姿勢を示す。

・年金減、特別立法で通常国会に提出: 日本航空の再建をめぐり、国土交通省は企業年金の支給額を強制的に減額できるようにする特別立法を目指す方針を固めた。来週開かれる政府の日本航空再建対策本部で提案し、合意を得られれば、10年の通常国会に法案を提。


事実上、現在のJALは、年金による負債総額が膨らみ、事業で賄う収入や資産売却で補えない債務超過であると予測される。

事業運営のセオリーでは、事業を続けられる条件は、資本を調達するコストを上回る収入が得られることとされている。

このセオリーを分解すると、収入を増やす、コストを減らす、安くお金を得られるところを探す、そして、(資産がある場合は)売れる資産は売る、となるわけだが、前項の先週のトピックスの前者2つは収入とコストに関するP/Lの話、後半2つは、お金の流れを示すキャッシュフローと資産と負債を表すB/Sの話だ。

そして、今回のJALの問題を改めて繰り返すと、本質的にはP/Lの問題ではなく、B/S側の問題なのである。

先週のBlogで述べた「ざるに水を通す」とはこのことで、いくら事業運営でお金を稼いでも(2006~2008年度決算で一番良くて170億円の黒字、ほか2年は赤字決算)、年金積立の不足分(3,000億円規模)で黒字が消えてしまう事業構造となっていることが問題なのだ。

前原国交相が「もしも年金などのレガシーコストがカットされなければ、会社の存続も厳しいものになる」と述べたと報道されたが、これは何も大げさなことではなく、最も端的にJALの事業構造の問題を指摘していることになる。

だから、JALの本質的な課題である年金問題に切り込むべく、国土交通省は企業年金の支給額を強制的に減額できる特別立法を目指す方針を固めたわけだ。

これに対し、JALのOBが反対の意向を示しているとのことで、記者会見をされたあるOBの方は「提訴も辞さず」と発言、また、JALのOB有志でつくる「JAL企業年金の改定について考える会」が退職者に対し、ウェブサイトで「減額反対」の署名を募ったところ、対象者約9千人中4割を超える3,740人分の署名が集まったという。

この反応に対しては、関係者の方には、大変、不遜な発言と受け取られるかもしれないが、一過言ある。

先の事業構造の問題点などを踏まえ、同会のOB諸氏にお伝えしたいのは、一体誰がこんな事業構造にしたのか?ということだ。

現役社員が自分たちの実入りを削ってまで再建に奔走せざるを得ない状況に追い込み、さらには政府が関与しなければ運転資金が得られず、公的資金の投入の可能性すら必要な会社にしたのは誰の責任なのだろう?

景気後退の影響で、財政状況が厳しいなか、国に対して資金のねん出を迫らざるを得なくなってもなお、OB諸氏が反対の意向を示し続け、果ては訴訟など起こせば、国民全体に背を向けることを覚悟せねばなるまい。


話が長くなってきたので、そろそろ今回の話をまとめたいが、これらの話から得られる教訓は2つ。

1.最悪の事態になったら、国は法律を変えてまでも年金支給を強制的に減額する処置をとる。

2.「最悪の事態」になってから国にその処置の不正を訴えても後の祭り。その事態を作り出す責任は、一部の責任者や役人にあるのではなく、その恩恵や負担の最終責任を負う我々一人一人にある。

環境が変わり、これまでのルールが通用しないかもしれない状況では、現行制度を前提に将来の負担や受益を考えてもあまり意味がない。

どうせ制度を変えるなら、いい方向のほうがいいし、制度変更といったことに踏み込まなくても、個人でできることはあるはず。

国や企業といった組織以上に個人が意味を持つ可能性、そして、昨今、ややもすると金融危機でネガティブに捉えられがちなGlobalizationの動きも味方になってくれるかもしれない。

そんなことも考えながら、次回、今後のアプローチを考えていきたい。

K

2009年11月1日日曜日

JAL再建に見る日本の課題~レガシーコストにどう立ち向かうか?(1)

先週のBlogで政府の予算編成に関して触れたが、その後、国会も始まり、この予算問題について活発にやりとりされている様子がメディアでも取り上げられた。

ほぼタイミングを一にして、JAL再建問題について、10月29日、経営再建を検討してきた専門家チーム「JAL再生タスクフォース」より報告書が提示され、容易ならざる再生への筋道の一部が明らかになった。

前原大臣は、「タスクフォースの案を公表することは意味がない」として、報告書の中身を公表しなかったが、毎日新聞が報じた、JALの再建案骨子は、次のとおり。

◆タスクフォースの日航再建案骨子◆

・企業再生支援機構の活用

・公的資金投入を含めた資本増強(3000億円)

・金融機関の融資

・金融機関による債権放棄(2200億円)と債務の株式化(300億円)

・9000人の人員削減

・45路線を廃止

・企業年金の給付水準の切り下げ


拡張しすぎた路線や余剰人員なども問題であろうが、これは「ナショナル・フラッグ」としての役割を担ってきた代償といえる。また、日本エアシステムとの合併もあったので、事業規模の面では、ANAと比べると大きくなってしまった一方で、組織統合といった側面も含めた資産効率を高める努力が必要だったことも想像に難くないだろう。

最大で8,000億円の債務超過になる見通しや、11月末にも資金ショートする公算が大きいなどが報道されているが、ただ一連の内容をみて思うのは、同社の課題の本質は、事業運営そのものではなく、同社が抱える企業年金負担の重さではないかという印象を受ける。

よくレガシーコストなどといわれ、GM再建報道などを巡って、盛んにとりあげられてきた表現だが、レガシーコストとは、「過去のしがらみから生じる負担(いわゆる負の遺産)のことである。狭義には、企業等が退職者に対して支払い続ける必要のある年金、保険等といった金銭的負担を指して言うことが多い」(出典元:Wiki)

事業規模が大きい分、「古き良き」時代を過ごした退職者も多い分、退職者への年金支払いも膨大となる。

毎日新聞の報道を引用して、JALの年金債務のポイントをまとめようと以下のようになる。

・今年3月末時点で退職金と年金の合計額(退職給付債務)は8,009億円。

・年金資産は4,083億円しかなく、引当金などを除くと3,314億円が積み立て不足。

・運用利率が年4.5%と現在の金利水準よりかなり高く設定されているため、積み立て不足は事実上の「有利子負債」で、経営の大きな負担。

・専門家チーム「タスクフォース」は運用利率を1.5%程度に大幅に引き下げる案をまとめたが、実施には現役社員(約1万7,000人)とOB(約9,000人)の各3分の2以上の同意が必要、承認されれば積み立て不足を約1,000億円に圧縮できると見込む。

つまり、JALの「金庫」には引退したOB諸氏に支払うべき年金の半分くらいしかなく、約束している利率が高いことが輪を掛けて負担を重くしているので、現役社員がいくら経費節減や営業努力に取り組んでも、ざるに水を通すが如く、債務圧縮の効果がない構図になっているのだ。

でも、この話、どこかで聞いたことがないだろうか?

そう、先週、Blogで取り上げた政府予算の構図と似ている。

概算要求の4割を占める厚生労働省の予算だけで税収に匹敵してしまうので、その他の国として運用する予算は、国債などの借金で賄わねばならないという構造と一緒である。

国として会社として、両者に共通する根本的な問題は、既に引退した世代への負担、すなわちレガシーコストにあるといえるのではないか。

レガシーコストの悪化が招く結果として、海の向こうでは、GMが民事再生法を申請、同社の資産を切り売りするなどして再建を目指している。

また、JALの再生スキームも経営破たんこそさせないものの、政府管理下に置き、経営陣の退陣を図ったうえで、債権放棄の要請やつなぎ融資、人員削減、そして、企業年金の利率引き下げに取り組むと報道されているので、事実上、経営破たん後の民事再生プロセスと同様といえなくもない。

それでは、日本はどうすればいいのだろうか?

次回、この続きに触れてみたいと思う。

K