2009年11月8日日曜日

JAL再建に見る日本の課題~レガシーコストにどう立ち向かうか?(2)

先週のBlogでは、昨今、取り沙汰されている日本航空の再建問題について触れ、その問題の本質が事業運営以上に年金負担にあること、そして、収入と負債のバランスが取れていない状況を日本の財務構造となぞらえることができるということを指摘した。

先週からのこのトピックスだが、JAL単体の問題を掘り下げるというよりは、JALが抱える事業構造が日本の予算・財務状況と酷似していることを踏まえ、同様の状況が起こったとき、もっと直接的にいえば、公的年金が危機に直面した時に、政府はどう対応するのかということを確認することに焦点を当てたいと思う。

JALは公開企業であるので、国の運営と性質として異なるのは十分に承知のうえであるが、ことここに及んで、事実上、JALが国の管理下に置かれていることは、つなぎ融資への対応、そして、6つの省庁と内閣府が絡む対策本部が発足されていることから明白だろう。

すなわち、JALの本質的な課題であるレガシーコストへの政府対応は、将来の日本のレガシーコスト(=年金)への布石と見てもいいだろう。

以上の前提で、先週の動きをおさらいすると…

・国内外16路線の運航を廃止: 12月から来年6月にかけて、グループの国内線8路線、国際線8路線の計16路線を廃止し、神戸やメキシコ、中国・杭州など5空港から撤退。企業再生支援機構に支援を要請中の日航は、公的支援を受ける見通しで、不採算路線からの撤退を加速させていく。

・冬の賞与カット: 全8労働組合に対して冬の一時金を全額カットする方針を伝えた。

・つなぎ融資への対応: 政府の日航再建対策本部は日航に融資をしている主要銀行に対し、日航支援に必要なつなぎ融資を要請。政府側が求めたつなぎ融資額は1千億円超。主力銀行のうち日本政策投資銀行やみずほコーポレート銀行は、政府が日航の企業年金削減や、日航が活用を申請した企業再生支援機構による支援決定の迅速化などを政府が確約することを条件につなぎ融資に前向きな姿勢を示す。

・年金減、特別立法で通常国会に提出: 日本航空の再建をめぐり、国土交通省は企業年金の支給額を強制的に減額できるようにする特別立法を目指す方針を固めた。来週開かれる政府の日本航空再建対策本部で提案し、合意を得られれば、10年の通常国会に法案を提。


事実上、現在のJALは、年金による負債総額が膨らみ、事業で賄う収入や資産売却で補えない債務超過であると予測される。

事業運営のセオリーでは、事業を続けられる条件は、資本を調達するコストを上回る収入が得られることとされている。

このセオリーを分解すると、収入を増やす、コストを減らす、安くお金を得られるところを探す、そして、(資産がある場合は)売れる資産は売る、となるわけだが、前項の先週のトピックスの前者2つは収入とコストに関するP/Lの話、後半2つは、お金の流れを示すキャッシュフローと資産と負債を表すB/Sの話だ。

そして、今回のJALの問題を改めて繰り返すと、本質的にはP/Lの問題ではなく、B/S側の問題なのである。

先週のBlogで述べた「ざるに水を通す」とはこのことで、いくら事業運営でお金を稼いでも(2006~2008年度決算で一番良くて170億円の黒字、ほか2年は赤字決算)、年金積立の不足分(3,000億円規模)で黒字が消えてしまう事業構造となっていることが問題なのだ。

前原国交相が「もしも年金などのレガシーコストがカットされなければ、会社の存続も厳しいものになる」と述べたと報道されたが、これは何も大げさなことではなく、最も端的にJALの事業構造の問題を指摘していることになる。

だから、JALの本質的な課題である年金問題に切り込むべく、国土交通省は企業年金の支給額を強制的に減額できる特別立法を目指す方針を固めたわけだ。

これに対し、JALのOBが反対の意向を示しているとのことで、記者会見をされたあるOBの方は「提訴も辞さず」と発言、また、JALのOB有志でつくる「JAL企業年金の改定について考える会」が退職者に対し、ウェブサイトで「減額反対」の署名を募ったところ、対象者約9千人中4割を超える3,740人分の署名が集まったという。

この反応に対しては、関係者の方には、大変、不遜な発言と受け取られるかもしれないが、一過言ある。

先の事業構造の問題点などを踏まえ、同会のOB諸氏にお伝えしたいのは、一体誰がこんな事業構造にしたのか?ということだ。

現役社員が自分たちの実入りを削ってまで再建に奔走せざるを得ない状況に追い込み、さらには政府が関与しなければ運転資金が得られず、公的資金の投入の可能性すら必要な会社にしたのは誰の責任なのだろう?

景気後退の影響で、財政状況が厳しいなか、国に対して資金のねん出を迫らざるを得なくなってもなお、OB諸氏が反対の意向を示し続け、果ては訴訟など起こせば、国民全体に背を向けることを覚悟せねばなるまい。


話が長くなってきたので、そろそろ今回の話をまとめたいが、これらの話から得られる教訓は2つ。

1.最悪の事態になったら、国は法律を変えてまでも年金支給を強制的に減額する処置をとる。

2.「最悪の事態」になってから国にその処置の不正を訴えても後の祭り。その事態を作り出す責任は、一部の責任者や役人にあるのではなく、その恩恵や負担の最終責任を負う我々一人一人にある。

環境が変わり、これまでのルールが通用しないかもしれない状況では、現行制度を前提に将来の負担や受益を考えてもあまり意味がない。

どうせ制度を変えるなら、いい方向のほうがいいし、制度変更といったことに踏み込まなくても、個人でできることはあるはず。

国や企業といった組織以上に個人が意味を持つ可能性、そして、昨今、ややもすると金融危機でネガティブに捉えられがちなGlobalizationの動きも味方になってくれるかもしれない。

そんなことも考えながら、次回、今後のアプローチを考えていきたい。

K

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