2009年11月28日土曜日

高速道路の原則無料化をどう考えるべきか?

JALと年金問題のトピックスは、もう一回、スキップさせてもらって、トピックスが陳腐化しなうちに、高速道路無料化のことをまとめてみたいと思う。

本件については、政権交代直後は、子供手当と並び、メディアでは結構な頻度で取り上げられていたが、最近、やや落ち着いてきた感がある。

結果的に、それ以上の難問があるが故に、相対的にそうなってしまっているということか。。。


今月初めに、この件を改めて考えさせられるイベントが、海の向こう側であった。

アメリカの著名投資家 Warren Buffett氏が経営する投資会社Berkshire Hathawayが、アメリカの鉄道大手Burlington Northern Santa Fe Corporationの買収を発表したのだ。

Buffett氏といえば、事業の本質的な事業価値に比べて、株価が安く放置されている会社に長期投資を行う、バリュー投資で莫大の富を築いた投資家として有名である。

ITバブルのさなかに、天井知らずな株価をつけるIT企業にはいっさい目をくれず、成熟期を迎えた企業への投資スタイルを崩さなかったので、「Old Economy」好きともいわれる。

一方で、慈善事業に熱心だったり、昨年の金融危機の際は、ゴールドマン・サックスやゼネラル・エレクトリックといったアメリカを代表する会社に対して救済ともとれるような投資も行い、アメリカの実業界の救世主的存在にもなった。

そのBuffett氏が、今度は鉄道会社に対して、過去の投資と比べても多額の投資(340億ドル≒3兆円弱)を行う。

その理由は明快だ。

「私は基本的に米国が繁栄すると信じています。今から10年後、20年後、30年後には、より多くの人がよりたくさんのモノを移動させるはずです。その時、恩恵を受けるのは鉄道です。私は米国に賭けているのです。」

海の向こうの偉大な投資家は、祖国への強い想いとともに、今後の成長の活力となる、移動手段には、鉄道が大きな役割を担うとみているのだ。


今年4月に、Barack Obama大統領は、主要都市を繋ぐ、80億ドル規模の高速鉄道の建設計画(今後5年間、毎年10億ドルずつを投資する計画)を発表。

こういった国の政策も睨んでのことだとは想像に難くないが、一方で、これだけ環境への関心が大きくなり、原油価格上昇への不安感から、公共の輸送網として、鉄道の役割が大きくなるだろうという見通しも、至極、最もなように感じられる。


国の発展に高速鉄道の役割を期待するアメリカに対して、日本はMotorizationの活性化のほうが優先順位が高いようだ。

それは、原則、高速道路料金の無料化の政策に見てとれる。

私は、この政策のブレーンは山崎養世さんという方だと睨んでいる。

山崎氏は、大和証券、ゴールドマン・サックスなど金融の世界から一転、徳島県知事を目指し、選挙に臨んだ経歴を持つ方で、当選はできなかったものの、「高速道路無料化」、「郵政資金の中小企業への活用」といった持論は、2003年11月の総選挙における、民主党のマニュフェストに採用された。

今年の総選挙での民主党のマニュフェストの「高速道路無料化」は、それ以来、脈々と残ってきたものだ。

本件に関する氏の持論を大ざっぱに説明すると、「高速道路無料化」は、東京への一極集中を改めるとともに、大都市輸送料金を引き下げ、結果的に、地方への人の流れが活性化し、地方都市の経済発展に役立つ、という構図だ。

そのヒントになっているのは、実はアメリカのフリーウェイであり、原則、「フリー」(=無料)の高速網が、中核都市の形成を後押しし、ほどよく地域経済が分散化されたのだと分析されている。


先週末に、京都を訪れた際に、のぞみ(N700系)に乗ったが、その乗り心地の快適さもさることながら、移動時間も短縮されていたことに、改めて新幹線の威力を思い知らされた。

今月は、そうした鉄道関連産業の競争力を感じさせるニュースがいくつかあった。

1)JR東海は、アメリカ、イギリス、インドなど外国の在日大使館員や鉄道業界関係者らを乗せて、米原―京都間で営業運転より速い時速330キロを出すデモ走行を行い、新幹線をアピールしたという。

中日新聞によれば、アメリカ・テキサス高速鉄道協会のロバート・エクルス会長は「(高速時も)滑らかな乗り心地だった。TGVや中国・上海のリニアにも乗ったが、高速鉄道市場で競争力があると思う」と話したという。

加えて、JR東海の葛西敬之会長は米国のコンサルティング会社と契約し、販売先候補先を調べていることを明かした。同社幹部によると、高速鉄道構想がある米・テキサス州とイリノイ州周辺が現段階で有力ということだ。


2)日立がイギリスで鉄道事業の大型受注(=総事業費1兆円)したこと、また、川崎重工業が、アメリカで路面電車を開発したことが明らかになった。

24日付の日経新聞では、モノや人の輸送手段を航空機やトラック、乗用車から鉄道や船に切り替えて、環境負荷の低減に役立てる、「モーダルシフト(Modal Shift)」というトレンドを紹介しながら、このニュースを報じた。

これらニュースを聞いて、台湾の新幹線の運用が日本の会社によってサポートされていたことや、VirginのBranson氏がVigin Trainsを始めたのは、日本の新幹線に乗ったことがきっかけだったことを思い出した。


こういったニュースに前後するように、ついに、17日に、前原大臣は、来年度予算概算要求に盛り込んだ高速道路無料化の社会実験費用6000億円について「しっかり見直していく」と述べ、今後の予算編成過程で減額があり得ることを示唆した。

「事業仕訳け」といった予算削減の流れも意識してのことだろうが、国土交通大臣の見直し発言は、重みがあるだろう。


そもそも、都市と都市を結ぶ高速交通網は、その拠点となる都市において経済活動の裏付けがない限り、活性化しようがない。

交通網がその経済活動を後押しすることはできようが、交通網自身が経済活動を活性化させることはなかなか難しい。

道路建設という手段はあるが、そういう土木事業を起点とした経済発展に見切りをつけたところに、民主党政治の意義があるのだろうから、それを今更掘り返しても仕方がない。

運送費が下げられるというメリットもあろうが、それも輸送の発端となる経済活動が停滞したままでは、十分にそのメリットを享受できないだろうし、渋滞という副作用を生みだすことも念頭に置かねばなるまい。

例えば、エコカー減税対象車のみ高速無料化として、環境対策と自動車業界へのプラス効果を図る政策変更もあり得なくはないだろうが、対象車種を限定することによって、無料化のインパクトがどこまで図れるかははなはだ疑問である。

それよりも、高速鉄道関係産業をさらに強化して、国内のみならず、海外も含めて、輸送網強化や環境改善に貢献するほうが、よっぽど、経済効果があるように思う。

こうして考えると、環境対策や現状のインフラの効率化を図る上で、高速道路無料化よりも、高速鉄道促進のほうにAdvantageがあるような気がするが、みなさんはどう思われるだろうか?

税金というかたちで我々も国に「投資」しているので、納税者という投資家として、どちらに賭けるかという視点で考えてみるのもいいかもしれない。

K

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