2009年8月19日水曜日

Bottom-upから考えるNew Economy(2)

社会的起業についてはこれまでのBlogでも何度か言及してきたが、ボトム・アップ型の経済システムのひとつのソリューションになると考えている。

というのも、活動の性質として、今ある経済システムから漏れてしまう様々な社会的ニーズを解決する手段として、有効と考えるからだ。

芝浦工業大学・渡辺教授と東京工業大学大学院・露木氏の両氏は、最近の論文「社会起業家と社会イノベーション」で、市場経済を前提とする経済活動と公共サービスを提供する政府活動の2つのセクターに加え、市民がイニシアティブを持つ第3のセクターとして、非営利組織(NPO/NGO)に並び、社会起業家(Social Entrepreneur)に関心が集まっているという。

その背景として、グローバル化と利益の最大化を前提とする経済とは別に、「もう一つの経済(Alternative economy)」が存在しているという考え方がある、と。

その典型が、「コア・コンピタンス経営」の共著者で有名なC.K.プラハードが、「ネクスト・マーケット」で唱えた、「ボトム・オブ・ピラミッド」というコンセプトであり、利益極大化の経済システムが無視してきた市場に焦点を当てようというものだ。


コア・コンピタンス経営


ネクスト・マーケット

具体的には、発展途上国の低所得者層向けの事業を想定しているのだが、日本でもお馴染みの取り組みとしては、グラミン銀行のマイクロクレジットなどもこの取り組みの一つといえるだろう。

勘違いして欲しくないのだが、ここで訴えようとしているのは、発展途上国向けのビジネスを普及させようということではない。あくまでも、日本で行う事業を前提としている。

イギリスの社会変革財団 ヤング財団のGeoff Mulgan氏はいう。

「Business Innovationが、“利潤最大化”に動機づけられたイノベーションと位置づけられる一方、Social Innovationとは、“社会ニーズ”に動機づけられた革新的な活動やサービスである」

日本では、昨今の景気悪化もあり、景気浮揚策の一環で経済第一主義になりそうな雰囲気もあるが、この10年弱の市場の歪みを直す意味でも、「もう一つの経済」、「“社会ニーズ”に動機づけられた革新的な活動やサービス」に注目する必要があると思う。

先のBlogで、農業とエネルギーを政府のイニシアティブとして推進すべし、と申し上げた。

しかし、これらの事業には初期投資に莫大な資金が必要で、その投資回収を前提に事業計画を立てざるを得ない。

また、その分、安定した利益を上げるのに時間が掛かることも想定される。

別な言い方をすれば、これらのNext Economyへの参入は巨大な資本を持つ会社や団体のみに限られ、利益最大化を目指す市場経済の論理で展開されることも十分に予想される。
(現にEnronはそうだった!)

そのため、事業の性格としてはこれまでの製造業と大きくは変わらないことになるかもしれない。

また、我々の生活にベネフィットとして実感されるまでに時間も掛かるだろうし、その事業のなかで雇用を吸収しようとするのも限界があるだろう。

一方で、社会起業家による社会ニーズに応えるビジネスはそれとは異なり、はるかに少ない資金、しかも、少人数で始められるメリットがある。

より本質的には、利益の最大化を目指す市場経済でも、様々なしがらみから逃れられない政治活動にも実現できないサービスが提供される可能性があるということだ。

だから、社会的起業は既存の会社組織や団体に縛られることなく、個人がオーナーシップを持って始めるべきだと思う。

少ない事業体や団体が従業員を雇うのではなく、数多くの事業者が少ない従業員を雇うような社会、「1億総中流」ならぬ、「1億総事業者」構想というのもスケールが大きくて面白い。

ただ、懸念されることとして、ある一定のニーズの下、始めるのでそこそこの事業にはなるだろうが、どれくらい継続し、どれだけの規模になるのかは不透明な部分も多い。

だから、事業が行き詰まる前の対策や事業が倒産してしまった後のセーフィティーネット面で、政治的なイニシアティブも重要である。

そして、事業資金の獲得が大切であるが、これは既存の金融機関に頼れないだろう。

その役割を果たすのはCSR投資に関心を示す投資ファンドや、マイクロクレジットを行う金融機関(「グラミン銀行 日本支店」?とか)だろうと思う。

こんなところにも、新たな産業や雇用の受け皿が生まれそうだ。

こういった、「もう一つの経済」を前提にした社会起業家、そして、彼らの活動によるソーシャル・イノベーションで、ボトム・アップ型のNext Economyは、これからの日本を考えるうえで、大切なコンセプトだ。

今の20代の若手世代がこの領域に関心を持っているのも心強く思う。

これら社会起業をサポートするシステムや具体的な事業など、引き続き、この課題については、折に触れて、注目していきたいと思う。

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