2010年2月28日日曜日

金融業界に続く製造業のグローバル化の課題 ~トヨタのリコール問題が提起するもの

先週、アメリカ議会の公聴会で、一連のリコール問題に絡み、豊田社長が証言した。

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そもそも、公聴会に(たとえ世界の大企業のトップとはいえ)日本人が発言すること自体が珍しいことだったし、米政府の政治的プレッシャーは行き過ぎた印象を拭えないものの、今回の問題の背後にある製造業のグローバル化の課題を垣間見た気がした。

私には、2008年に起きた金融業界のグローバル化の課題からやや遅れて、製造業のグローバル化の課題が浮き彫りになった感がある。

2008年の金融問題は、サブ・プライムローンを証券化し、それを細分化して世界中にばら撒いたものが、ローンの返却が見込めなくなった時点で証券が焦げ付き、問題が拡大した。

今度のリコール問題は、グローバル化を進める中で、効率化と利益の最大化を追い求めるあまり、設計・部品の共通化の結果、一部部品の不具合ですら、全世界に波及するかもしれないという規模のリスク(サブ・プライムローンの「細切れ証券」と同様)と、その対応如何で世界的に批判を浴びかねないという評価低下のリスク(=Reputation Risk)の可能性を浮き彫りにしたと考えている。

今回のリコール問題については、既に対処済みのアクセル・ペダルの不具合の問題が蒸し返され、また、技術的に不具合と確認されていない電子制御装置がやり玉に上がるという、恐らく当事者(特に関わったエンジニア)からすれば、やりきれない想いであろうと思う。

ただし、顧客から問題が指摘された時に、例え技術仕様では問題ないとしても、迅速、かつ、適切に対応しようという姿勢が足りないと、業界トップの会社といえども、一気に足元をすくわれてしまうことを示唆している。

まして、不適切と思われた対応の裏に、会社が利益を第一にした形跡がある、または、社内の体制維持を優先したと捉えられる形跡があると見られれば、なおさらである。

トヨタの品質への取り組みに関する評価は高く、ほかの企業が学ぶくらいだし、かくいう私も、大学院時代にはトヨタを日本の製造業のベンチマークとして研究したこともあったので、トヨタの取り組みが中途半端でないことは想像がつく。

ただし、そんなトヨタがリコールに端を発し、お家芸としてきた品質について、昨年、破綻の危機に直面し、品質ではトヨタに劣るとの評判だったGM、Ford、Chryslerを援助しているアメリカ政府から攻撃を受けるとはなんとも皮肉である。

ただ、最強とも思えたトヨタにも弱点があったのかと改めて思わせたのは、豊田社長の次の発言である。

「事業拡大のスピードに人材育成がついていけなかった」

2008年の金融危機直後の業績悪化の際の問題点として、トヨタが指摘されたのは、事業を拡大した結果生じた製造設備に関する減価償却費負担の大きさだった。

一度、大きな設備を持ってしまったにもかかわらず、想定した売上を達成できないと、売上を費用が上回ってしまうため、無駄遣いをしなくても、損失が自動的に発生してしまうことが起こる。

ただ、それは会計上の数字の課題であるわけだが、今回は、それを運用する人材のこと、いわば「ソフト」の課題があったことを示唆したわけだ。

また、報道では、日本本社に意思決定が集中し、現地でのリコール対応が遅れたとの指摘がされている。

もし、これが事実なら、経営オペレーションの課題を浮き彫りにしており、トヨタが会社として取り決めた様々なルールが、「対応の遅れ」と指摘されていることと同義だ。

だとすれば、厳密な社内ルールを重んじるトヨタにとっては、根本的な課題の修正を検討せねばならなくなるだろう。

また、私が気がかりに思っているのは、これら拡大路線とその弊害は偶然起こったわけではなく、例えば、2004年の製造業派遣などもそのContextのなかに含めて考えるべきで、これら一連の出来事は、金融業界で起きたFRBとWall Streetの関係ではないが、やはり、日本の経団連と政府、そして、トヨタのようなトップ企業が連動して、取り組んだ結果なのではないかと思うのだ。

というのも、2000年になってから、御手洗現会長が就任するまで経団連の会長を務めてきたのは、何を隠そう、トヨタのトップだった奥田碩氏であり、奥田氏の会長就任期間に製造現場への派遣社員採用が可能となったからだ。

裏を返せば、トヨタの内部で、一連の経営を取り仕切り、いわば実質的な経営の実権を握っている経営層や、それまで、トヨタの海外拡大をサポートしてきた政府・実業界の課題を、一手に握って、豊田社長は公聴会に臨んだという言い方もできるかもしれない。

電子制御の欠陥といった技術的な課題は明確に否定しつつ、「TOYOTA WAY」を説明し、今後、その課題の克服に懸命に取り組むことを必死になって説明している公聴会の豊田社長は、いささか痛々しい印象すらある。

それは、豊田社長のバックには、トヨタ自動車はもちろんのこと、日本政府・自動車業界に収まらない日本の実業界が控えているためだろう。

ただ、私には、この公聴会での発言はもちろん、一連の会見で、豊田社長の創業家ならではの責任感、そして、顧客に対しての謝罪の姿勢が、ひしひしと感じるのだが、いかがだろうか?

これは、豊田社長でなければ発することができないメッセージだろうが、本当の課題は、今後、それがどう実行されるかである。

今回の問題は、トヨタ単独や日本の製造業にとっての課題ではなく、製造業全体のグローバル化の課題だと思うので、今後のトヨタの動向に注目したい。

とりとめもなく、気付いたことをまとめたが、皆さんのご意見をお寄せいただければ幸いである。

K


ザ・トヨタウェイ(上)


ザ・トヨタウェイ(下)

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