2010年2月20日土曜日

Promise Academyの教育が示唆するもの

アメリカにCharter Schoolという制度があるのをご存じだろうか?

通常の公立学校とは別に、地域住民、教師、保護者などが、学校の特徴や設立後の目標などを定め、行政の特別認可の下で行う独自の学校教育のことである。

当初は、コンピュータ・リテラシー教育、理科教育に特化した学校や、不登校の子ども達を対象にした学校などを目的としたものが多かったようだが、最近は、人口構成比率に伴った人種別の入学者数を制定する学校が出るなど、教育政策的な色彩も併せ持つようになってきたようだ。

そんななかで、脚光を浴びている学校のひとつが、Promise Academyである。

Geoffrey Canada氏が設立し、ニューヨークのハーレムの子どもたちに教育、医療、福祉を包括的に提供するサービスを無料で提供している。

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Geoffrey Canada氏

学校の名前の「Promise」は、この学校で学ぶハーレムの子供たちを全員大学へ行かせることを約束した学校だからだという。

現在、Promise Academyには、幼稚園~高校1年まで1,200名が在籍している。

クラスは、生徒6人につき先生1人、土曜も講義があり、夏休みは3週間。

校内には内科も歯医者もあり、複数のクリニックも併設されている。

入学は抽選で選ばれるが、Promise Academyに入学できなくとも、Harlem Children’s ZONEとよばれるこの地域にはPipelineという補習制度があり、フォローする制度が整っている。

しかも、最も驚くべきはその実績だ。

New York州のデータによれば、小学3年生全員が算数で全国を上り、公立学校に通う白人生徒の成績も上回った。

それに加え、Promise Academyを調査したHarvard大学経済学部 Roland Fryer教授はいう。

「一般的に、17歳の黒人の国語の読解力は13歳の白人と同じと言われており、人種間で4歳も差があるといわれているが、Promise Academyでは、算数と国語の学力差が”小学校の段階”でなくなる」

「また、中学からPromise Academyに入学した場合でも、数学で3年以内に学力差をなくし、国語では差を半分にした」

また、公立学校に通っていて、Pipelineの補習を受ける生徒の9割は大学へ行っているという。

その裏には、厳しい競争原理と生徒へのユニークな「ご褒美」の仕組みがある。

設立者のGeoffrey Canada氏はいう。

「生徒が大学へ行けなければ講師も、補習講師も理事もクビ」

また、生徒は州の学力テストでAをとると、Disney Landに行くことができ、高校生になると成績優秀で皆勤賞となれば月々120ドルの褒賞が渡されるという。

ご褒美の考え方は、日本では賛否が分かれるかもしれないが、設立者のGeoffrey Canada氏の考え方は一貫している。

「お小遣いのためであれ、勉強すればよい。」

また、ウォール街からの寄付で賄われている、年間7,600万ドルの学校運営費を単純計算すると、年間一人当たり5万ドルになるため、その運営費は高いのではないか?との指摘もあるが、

「いやいや、非行で刑務所に入れば年6万ドルの税金がかかる。少年院では10万ドルの税金がかかる。それでいて見返りがない。」

この裏には、子どもを将来の社会を担う貴重な存在と捉え、その子どもたちに、積極的に「投資」すると同時に、犯罪などの社会の負の側面を減らそうという、2つの効果を狙う姿勢が見てとれる。

このような取り組みは、全米のCharter Schoolにも影響を与え、Obama大統領も会見でコメントするなど、注目度が高いという。

この春から、子ども手当を開始する日本だが、パブリックの取り組みとして、貧困・不平等・教育問題を解決する、このような取り組みはほとんど聞かれない。

それは、社会としてそこそこの安全、そこそこな教育は最低限受けられるために、本腰が入らないのかもしれない。

このPromise AcademyやHarlem Children’s ZONEがあるのは、深刻な人種差別、貧困、犯罪など深刻な社会問題を抱えるHarlemだからこそかもしれないが、もし、それが有効であるならば、取り入れない手はないだろう。

皆さんのご意見はいかがであろうか?

K


Whatever It Takes: Geoffrey Canada's Quest to Change Harlem and America[洋書]

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