2009年9月15日火曜日

購買力平価と為替から考える日本の課題

先の週末は何かと慌ただしかった。

土曜日の朝から長時間の試験を行い(この歳でさすがにつらかった)、それが終わってからある講演会に参加、その日一日の労をねぎらうために夜はライブに出掛けたまでは良かったが、やや飲みすぎたためか、体調を崩し、日曜日はほとんどまともに動くことができなかった。

後半はなんとも情けなかったのが、こんな時にもいろいろと発見はあるものである。

今回のブログは、最近、個人的に目に触れる機会が多い話題である、購買力平価と為替の関係を取り上げて、日本の課題をまとめてみたい。

購買力平価ということば自体、かなり堅い表現なのに、なぜこんなに目に触れるかといえば、日本がデフレ・トレンドを辿っているのを意識していて、やはりモノの値段に関する話題に敏感なせいかもしれない。

そのため、目を通す新聞記事や講演会の話題などについても意識してしまい、取り上げられる機会が多いと感じてしまうのだろう。

結論からいえば、購買力平価の観点から判断すると、相対的に、日本円は他の通貨と比べて、10年以上その価値を下げ続けているらしい。

言い換えれば、外国から見れば、日本のモノはどんどん安く変えるようになる一方、海外のモノは、どんどん高くなり、買いにくくなっているのだ。

身近な例でいえば、日本から海外旅行に行く場合、コストは膨らむ一方で、日本に来る外国人観光客にとっては、日本のモノはますますお買い得になっているようなものだ。

この観点からすれば、サブプライムローン問題が表面化するまで自動車や電機などの輸出産業の業績が良かったのは偶然ではないと言える。

そうはいっても、皆さんは、日頃、テレビや新聞で目にする為替レートで、そういう理解がしっくりこないかもしれない。

ただ、メディアで紹介される為替レートは、物価水準が反映されていない、いわば名目の実効レートになるため、実質的な通貨の価値を反映しておらず、これだけでは為替の価値を判断できない。

そこで、購買力平価の出番になるわけだが、まずは、その基本的なコンセプトについて、説明したい。

購買力平価は、同じ商品であれば、どこの国でも、同じ価格で売られているはず、という原理に基づいた説である。

例としてよく引用されるのがハンバーガーで、日本において100円で売られているものがアメリカでは1ドルで売られている場合、購買力平価、言い換えると、為替相場の均衡点は、1ドル=100円となる。

この説のよりどころになっているのが、為替需給による自動調整機能で、もし、ある国の通貨が購買力平価に比べて割高になっているならば、輸出競争力が低下し、経常収支は悪化、その結果、その通貨の需給は「ゆるみ」、適正価格水準に向かって次第に下落していく、というメカニズムが働くという。

12日(土)に聴いた、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの五十嵐敬喜氏の話では、90年代半ば以降、日本の物価水準は海外に比べてじわじわと下がっており、その差は広がっているという。




そのため、上記のようなセオリーを適用すれば、日本円の実効レートは、円高に振れてよいはずなのだが、そうとはならず、実際には、円安トレンドになっているそうだ。

この理由は、我々が普段、メディアで目にする円の名目レートが、物価のズレほどには、円高になっていないためとのこと。

関連して、9月6日付の日経ヴェリタスでの深谷幸司氏の分析は興味深い。

主要通貨について、購買力平価を試算しているので、ここでご紹介しておこう。

米ドル: 1ドル=97円(消費者物価基準)/87円(資本財物価基準)
豪ドル: 1豪ドル=66円(消費者物価基準)
英ポンド: 1ポンド=148円(消費者物価基準)

(註: 深谷氏も紙面で述べているが、いずれも起点とする年や用いる物価指数もひとつではなく、絶対的な購買力平価ではないので、ひとつの参考値としてご確認いただきたい)

この試算と現在のレートを比較すると、実効レート以上に円安であることが見て取れる。

では、今後、米ドルと日本円を比較した場合、為替レートはどうなるのか?

前出の五十嵐氏は、米国の財政収支に着目しており、大幅に上昇する財政赤字を見越したうえで、それでも政策効果が実感できれば、リスク許容度が増し、ドルを売る動きが出るものと予測しており、そうなれば、ドル安・円高になるという。

ただし、日米の金利差が予想以上に開いた場合、ドルを買う動きの影響で、ドル高・円安にもなり得る、と付け加えていた。

これらを総合すると、物価を加味したうえで理論的に円の価値を考えれば、日頃目にする為替レートはもっと円高になってもおかしくない状況であることは理解いただけると思う。

一方で、賃金も上がらず、デフレ傾向が続き(個人的にはそう予想している)、海外との価格の差が開くようであれば、実質的に円安になる傾向は変わらない。

もし、そうなれば、これまでの輸出主導の製造業がけん引する日本経済からの変化は難しくなると同時に、食料や資源の調達がますます不利になっていくと予想される。

理論上、この流れを変えるには、デフレを止めるべきであるが、そのためには消費者の懐具合がそれなりに温かくならなければならないので、賃金の上昇が不可欠である。

そのためには、これ以上の失業率の悪化は防がねばならない、ということになるので、セーフティーネットも大事だが、より根本的には雇用を創出する政策がもっと大事になる、という、いつもの結論に落ち着くわけだ。

明日、誕生する鳩山新政権にその課題克服を期待しつつ、我々が主体性を持って取り組めることはないか、これからも考えていきたいと思う。

K

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