2009年12月12日土曜日

アメリカの新しい経済トレンドに見る政治的意図と日本の課題 ~日本の「New Normal」はどうあるべきか?

秋くらいから、アメリカの経済指標と株価の推移を見ながら、やや違和感を感じていた。

10%を越える失業率など経済指標は軟調に推移する一方で、株価は堅調に上昇している。

また、為替レートも大量の通貨供給の影響などもあって、円に対してドル安が続いているが、先月末の円高を期にようやく動き出した日本政府や日銀を尻目に、アメリカ政府は至って静観しているように見える。

90年代の半ばからアメリカは「強いドルは国益」として海外からお金を集め、そのお金を使って海外に投資するなどして経済を回してきた。

国全体が、預金口座のお金でビジネスを行う、銀行のようなことをやっていたのだが、その流れが変わりつつあることを実感する。

どうもゲームのルールが変わったようだ。

「New Normal」という表現で、金融危機後の新しい経済状況を表現したのは、米国の債券運用会社PIMCOの最高経営責任者であるMohamed El-Erian氏だ。

経済は元には戻らない、という基本的な見解の下、金融業界への規制が進んで借金をして投資を行うレバレッジが規制対象となり、新興国が高成長を享受するなか、先進国は低成長に甘んじる、といったことを指摘している。

金融業界への規制により、金融経済から実体経済への回帰も示唆した内容で、ちょうど、日本時間の今朝ほど、金融規制改革法案が議会を通過した。

また、RPテック代表 倉津康行氏は、11月29日の日経ヴェリタスにて、アメリカの代表的な企業が「アメリカでリストラし、海外で収益を伸ばす」構造へと変化している点を指摘、これに加え、当局は、春の大手銀行に対するストレステストの結果、危機に瀕した銀行はない、と公表したり、会計制度の修正して証券化商品などの評価損を凍結させるなどして、金融問題の封じ込めを成功させた、としている。

そして、11月25日付NewsWeekは、「株価が国内経済の見通しを反映するという考え方自体が時代遅れになった可能性もある」とし、アメリカの大手企業が海外での事業を拡大させていることや、海外で作って、海外で売っている状況を説明している。


低金利や過剰に流動性のある金融環境の下、レバレッジによる破壊的な経済リスクをコントロールしようという試みが、いままでなかったのが不思議なくらいで、額に汗してまじめに働く人たちが不意に職を失ったり、財産を手放さざるをえなくなったりする事態は避けるべきであろう。

ただ、急回復を望む市場のプレッシャーにより、企業は収益向上に躍起となる一方で、新興国のビジネスが急速に立ち上がったために、業績が上がっても、アメリカ国内で雇用が増えない、空洞化現象が顕在化しつつあるのは問題だ。

アメリカの買収ファンド大手のKKR(Kohlberg Kravis & Roberts)のHenry Kravis氏は、一部投資先の経営者から「景気が回復しても増員しなくていい」という声を聞くという。景気悪化でやむなく人員を削減したが、経営に支障はなく、過大な従業員を抱えていたことがわかったというのだ。

いずれにしても、企業経営者にとっては明るい材料がないわけではないが、従業員にとって苦しい環境が続く、という見通しに変わりはない。

また、資金を集めるのに好循環をもたらしたドル高政策も、実体経済への回帰によって、海外での収益をドル安にすることで売上・利益を上積みするドル安政策に変わろうとしている、ということだろう。

これを裏付ける兆候は、10日にアメリカ・商務省が発表した、10月の貿易赤字額(329億3,600万ドルのマイナス)に表れており、前月比で赤字額が減少したのは6か月連続で、金額ベースでは、既に金融危機直後の2008年11月以来の高い水準に戻っているという。

これらの状況をひとつひとつ眺めると、冒頭の「違和感」といった現象は、決して説明がつかないことではないことがわかる。

言い換えると、中身のいい悪いは別にして、政府・中央銀行・経済界が連携して、経済を浮上させるべく動かそうという意思が確認できるのだ。


さて、これに比して、日本はどうか?

残念ながら、日本の動きは遅く、インパクトに欠け、首相の「友愛」精神とは裏腹に、政府・与党・日銀・経済界の足並みが揃っているようには見えない。

先月末に、唐突に発表された政府の「デフレ発言」も、私が このBlogで夏前にはデフレの長期化を指摘できたくらいだから、日銀や政府がわかっていなかったはずがない。

にもかかわらず、先月の急激な円高や「Dubai Shock」が勃発するまで、対応する政策を打ち出さず、先週になって、日銀が事実上の金融緩和策を発表するも、アナリストからは「規模が小さい」と指摘される始末。

補正予算についても、一次補正については、事業の執行スピードを犠牲に、「無駄をなくす」という前政権との違いをアピールすることを優先させた一方で、浮かせた予算を二次補正の財源にして規模も上積みさせようとしている。

無駄をなくすことには賛成だが、テレビの討論ショウのような「事業仕分け」にしても、結局、3兆円削減の目標に対して7,000億円程度の削減しか踏み込めず、予算の決定プロセスを「透明化」させる以上の意義を見出せなった。

個人的には、補正予算は前政権の内容を受け入れて、内容よりもスピードを重視し、景気浮揚、特に雇用への対策を即効あるものとし、むしろ、来年度予算の規模と内容を集中審議して、新政権のカラーを打ち出したほうが良かったと思う。

アメリカのFRBと政府、特に財務省との蜜月ぶりを見るにつけ、その中身は賛否あるにせよ、もっと、日本政府は日銀と連携して、財政と連携させた金融政策を打ち出すべきだ。

メディアで言われるマクロ政策の欠如や、国の基本戦略が見えないといった指摘は、以上のようなことが顕在化したことで、浮き彫りになるのだろう。

例えば、「日本列島改造論」といったわかりやすいキーワードで語れるほど、今の日本の課題はシンプルではないのかもしれないが、ちょうど、今、Copenhagenで暑い議論が繰り広げられている環境問題や少子化問題は、広く共感を得られやすいテーマだと思われる。

であるならば、「環境と人に優しい社会づくり」といったテーマを掲げ、政策や予算の優先順位付けを行うべきだと思うが、いかがであろうか?

日本の「New Normal」を形作るべく、さらなる政治のリーダーシップを期待したいものである。

K


債券王ビル・グロース常勝の投資哲学

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