2009年12月5日土曜日

JAL再建に見る日本の課題~レガシーコストにどう立ち向かうか?(4)

しばらくインターバルが空いたが、再び、この話題に戻って締め括りたい。

前回のブログでは、JAL再建に向けて、下記のモデルを用い、海外におけるLow-Cost Carrier(LCC)などの事例を用いながら、πの最大化に向けた意見をまとめた。

π=p・q-k

π: 利益
p: 価格/単価
q: 数量
k: コスト

航空業界に携われている方から見れば突飛な意見ばかりかと思うが、裏を返せば、そのくらい飛躍的なことをしないと、重くのしかかる年金という、レガシーコストはおろか、日々の運営すらもままならない、ということだと認識している。

どう解決するかは関係者の対応次第であるが、仮に公的資金活用が決まった暁には、いたずらに税金がJALという一企業の資金繰りや企業年金の原資にならないよう、願うばかりである。


さて、今回は、日本の公的年金について、このモデルを用いて考えてみたい。

まず、前提として、年金がどんな収入と支出があり、また、これまでの累積として、どの程度、ストックがあるのかを調べなければならなかったのだが、これがなかなか容易ではなかった。。。

この仕組みをどうやって数十年も維持するのか、現在、年金原資を支払う保険者として、そして、将来は、それを受け取る受給者として、不安を感じなくはない。

ただ、不安ばかりを感じていては、前に進まないので、まず、その仕組みからみていこう。


まず、かなり基本的な仕組みであるが、日本の年金制度は、現役世代の保険料負担で高齢者世代の年金給付に必要な費用を賄う、「世代間扶養」で運営されていることを確認しておきたい。

いい方を変えると、現役時代、こつこつと保険料を払っても、将来、自分が受給者になったときに、その原資を払ってくれる現役世代の保険者がいなければ、成り立たない仕組みである。

この点が、少子高齢化が急速に進行している日本で、年金制度の不安を煽る要因となっているわけだ。

テレビでよく見かける、何人の保険者で何人の受給者を賄うというような紹介をされると、日本は少子高齢化社会を迎えるので、年を経れば経るほど、保険料を支払う保険者の人数が少なくなっていく。

最も直近の厚生省のデータによれば、国民年金も厚生年金も、現在、だいたい2.6人に1人を養うようになっているらしい。


次に、収入、支出、そして積立金について。

(収入の構成)

1. 保険料収入(現役世代が支払うもの)
2. 国庫負担(国が「金庫」から負担する分)
3. 財産収入(専門の独立法人が年金運用から生みだした収入)

(支出の構成)

4. 給付金(年金受給者が受け取るもの)
5. 基礎年金拠出金(国民年金に使われるお金で、主に厚生年金と共済年金から支払われる)

この収入と支出の差額が、毎年、年金の積立金となって貯まっていく。

だから、冒頭のモデルを当てはめると、以下のようになると想定できると思う。

π= 年金の積立金
p・q= 保険料収入(=保険を支払う人 X 保険料)+国庫負担+財産収入
k=  給付金+基礎年金拠出金

年金原資が多ければ、年金支給もより安定すると解釈できるので、この設定で無理はないだろう。

今回、年金積立額の残高を調べてみたが、今年2月に試算された財政見通しでは、今年度末の積立金は144.4兆円、2050年度には544兆円を越えると書いてあり、やれやれ安心と胸をなで下したのも束の間。。。

これは、あくまで現行制度下の話で、5月に発表された厚生省の発表では、仮に給付財源について、あらかじめ蓄える「積み立て方式」に当てはめると、財源不足は現時点で500兆円になるという。

何がどうなるとそこまで差が出るのか、甚だ疑問であるが、いずれにしても、この144兆円を鵜呑みにするのも危険である。


ついでなので、厚労省が打ち出す、2050年度に500兆円を越える試算もこのモデルを用いて説明できそうだ。

まず、収入サイドについてであるが、基礎年金給付額に対する国庫負担金の割合を今年度から1/3から1/2に引き上げ(実施済み/p・q増)、保険料を現行の15.35%から2020年度には18.3%まで増やし(p増)、このデフレまっただ中な状況で、賃金上昇率を2.5%と仮定し、運用利回りの設定も4.1%へと引き上げている(p・q増)。
(ちなみにJALの年金運用利回りは、4.5%から1.5%に引き下げるべく交渉しようとしている)

一方で、支出サイドだが、経済成長率も出生率も中レベルとして、平均的な所得レベルから置き換えた比率を、2038年度以降、50.1%を保つとしているが、今年度の62.3%から10%以上削減する見込みを立てている(k減)。

また、一方で、年金の安定収入確保のために、消費税率を上げるという議論が上がったりしている。


この試算とて何もかも反対なわけではないが、すべてが「仮定通りになれば」という但し付きになるし、また、どれもこれも、中身のない財布からお金をむしり取ろうとしているようにしか見えないが、これ以外にどんな対策が打てるか?

先のモデルを用いて考えた時、これらの試算や意見で漏れていることがある。

国庫負担金、保険料、運用利回、消費税などの目的税は、いずれもpの要素に偏りすぎているように思えるのだが、qを増やす、つまり、保険料を払ってくれる人を増やす、という視点が欠けているように思えるのだ。

そういうと、必ずといっていいほど、出生率の話につながるが、子供が保険料を払うまで年数が掛かりすぎる。

そうではなく、今すぐにでも保険料を払ってくれる人、すなわち、日本に居住してくれる外国人を増やせばいいと思う。

調べてみると、日本の年金制度に国籍は関係なく、「日本国内に住所を有している」と、年金についての権利・義務が発生するそうである。

だから、外国人にとっては、保険料の支払い義務が発生する一方で、受給の権利ももらえるため、老齢年金であれば日本人と同じく25年以上の受給資格期間を満たせば年金が支給されるとのこと。

また、途中で帰国してしまうケースも考えられるが、その際、帰国する国が日本と「年金通算協定」を結んでいれば、日本で納めた保険料は母国の年金に反映されるので、掛け捨てや2重払いの心配もないそうだ。

社会保険庁のWebによれば、2007年度時点で、アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国、ベルギー 、フランスとは協定を締結済み、カナダ、オーストラリア、オランダについては、交渉中とのこと。

少なくとも、ここに上がった国の人については、もっと日本の年金をアピールすべきで、これに中国を加えれば、世界経済で主要な国の人を取り込むことも夢ではない。

そして、いささかずるいやり方かもしれないが、外国人が将来の日本永住を前提にすれば、日本の年金は世代間扶養が原則なのだから、日本人に住む外国人が支払ってくれる保険料によって、現役世代の負担は減り、引退世代の支給に賄うことも可能になるはずだ。

来てくれる外国人が若い世代であればある程、年金のみならず、所得税、住民税、消費税など税収面でもメリットが出てくるので、積極的に外国から若い人を呼んで日本で働いてもらうべきなのだ。

そうすれば、年金問題も解消されることだろうし、保険料や消費税も、今の想定程は上げなくていいかもしれない。

さらにいえば、祖国との行き来が増えれば、外国便に強みを持つJAL再生の一助になるに違いない。

ただ、いいことずくめのようだが、それには、日本が外国から人を呼べるほど、魅力的な国でなくてはいけない、という前提がつく。

これも難問だが、今なら、間に合うのではないか。

こうして、「内なるグローバル化」は日本の年金問題(JAL再生問題も?)を解決するかもしれない。

個人的には、身近に接することができる若い外国人が増えて、しかも、月々の年金負担が減る、なんてことを考えるだけでわくわくしてしまうが、皆さんはいかがであろうか?


また、グローバル化という観点では、年金運用利率は、日本の年金は、海外と比べ、かなり見劣りしている。

年金積立金管理運用独立行政法人が発表
した、今年度上期における年金向け運用実績は5.0%になったそうだが、これに対し、ノルウェーの年金基金が18.2%、カルフォルニア州職員退職金基金は16.4%、カナダの年金基金が12.0%、スウェーデンが7.1%、となっているのでかなり見劣りしている。

同法人の発表によれば、運用における株式比率の違いが結果に表れており、債券中心の日本は、より「安全重視の運用」となっているそうだが、これは上記のような、今の日本の年金の実情から考えれば、由々しき問題ではないか。

きちんと運用すれば稼げる運用利益を稼いでいないのだから、機会損失も甚だしく、しかも、安易に足りない分を保険料や給付削減に付け替えているのなら大問題で今後の改善を期待したいところだ。


「内なるグローバル化」の推進-JALと年金問題を考えるシリーズの結びの言葉として提案したい。

K

0 件のコメント: