1年に1度、日本経済と財政に対する現状を分析、政策面に貢献することを目的に発行されるものであるが、この内容がなかなかすさまじい。
具体的には、
・ 今年1~3月期に、実際の生産に見合った水準を超えて抱えている「過剰雇用者」は過去最多の607万人
・ 雇用者全体(約5,100万人)のうち、3人に1人は非正規社員(約1,700万人)
・ 非正規雇用の増加を主な理由に「正規と非正規との間には生涯所得で約2.5倍の格差がある」
などなど。
こういった雇用不安は、日本経済に深刻な打撃を与える見込みで、日本経済の需要不足は、年間45兆円に上り、「09年以降の基調的物価を大きく下落させる恐れがある」として、デフレが深刻化することへの懸念を示した。
この年間45兆円の需要不足のインパクトであるが、現在、日本の国家予算の支出は、一般会計と特別会計の重複を除くと、214兆円といわれている。
言い換えると、今、直面しているのは、国全体の予算規模の2割強の需要がなくなろうとしており、その規模たるや、国会で審議される対象となる一般会計の一部(37兆円)よりもはるかに大きいものなのだ。
ちょっとゾッとするような内容だ。
いつもと変わらない景色のなか、会社に勤める毎日を過ごしながらも、環境は明らかに悪化しており、働く人の半数近くは不安定な雇用環境に置かれ、年金不安や住宅ローン返済のために消費を削り、将来への不安のなかで過ごしている・・・来年、成人式に参加する年頃の人たちが生まれた時代に、日本がこんな不安定な社会になると誰が予想できただろうか。
この白書では経済回復の処方箋として、個人消費の拡大による内需拡大と、外需依存型である日本経済の特徴を鑑み、新興国の経済成長を念頭に外需拡大も目指し、「双発エンジン」による回復が想定しやすいとしている。
言い換えると、雇用者所得の下支えのために輸出産業が推進役を担うと見ているようだ。
ただ、この方程式は金融危機前の日本のビジネスモデルと変わらない。
白書でも総括しているが、結局、この不景気は、「世界的な貿易の縮小から自動車やIT製品などの輸出が大幅に落ち込んだこと」によるものなのだから、同じビジネスモデルを採用していたら、回復も難しいだろうし、同じような経済危機には対応ができない。
かの「創造的破壊」を説いたJoseph A. Schumpeterは、新しい経済活動のスタイルを築くイノベーションの創造には、起業家(=Entrepreneur)が重要な役割を担うと主張した。
その教えに倣えば、今までの雇用形態や会社形態の延長線上に解を得るのは難しく、むしろ、会社-個人、社会-個人、個人-個人の関係を一から見直し、新しい事業参画形態、及び社会参画形態を基礎に据えるべきではないかと思う。
事実上、終身雇用の継続が難しいなかで、なぜ、会社の従業員でなければならいのだろう?
個人で会社を起業し、いままで働いていた会社と業務委託契約を結ぶようなかたちもあっていいではないか。
正社員であっても、非正規社員であっても、解雇されるときは解雇されてしまうのだから、業務委託契約だからといって、一方的に不利ともいえないだろう。むしろ、税金面でのメリットを享受できる。
ここら辺の内容は、橘玲氏の近著「貧乏はお金持ち」に詳しいので、興味のある方には、購読をお勧めしたい。
別の見方をすれば、極めて小さい会社・組織のほうが社会の環境変化への感度も高まるであろうから、イノベーションも活発化するに違いない。
一見すると、悲劇的な状況に見えかねないほど、厳しい環境だが、非効率な会社組織から有為な人材を社会に発掘する、またとない機会かもしれない。
そんな機会にチャレンジしてみるのも、また、一考というものだろう。
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