2009年6月14日日曜日

スウェーデンの税負担から考える日本のこと

日本のメディアでは、早くも3カ月後とされる衆議院選の報道で過熱しており、そのひとつのトピックスとして、消費税が論点になりそうな気配であるが、それを考えるうえで、参考になりそうな記事が6月12日(金)発行の日経新聞で掲載された。スウェーデンの成長政策庁 ヤルマルソン長官の税負担に関するインタビューがそれだ。

私が注目したポイントは2つあって、ひとつは日本の消費税にあたる付加価値税の税率の高さ(25%)に関することと、もうひとつは法人税率の低さ(約26%)に関することであった。日本の消費税5%、法人税40%(平均の推計)と比べると対照的であり、そこには両国の仕組みの違いが表れているようである。

たかが税というなかれ。我々が生活する上で享受する公的な財・サービスの源泉であり、かつその負担が逃れられないものだけに、様々な意図と思惑が絡むはずだ。国の制度設計の違いを反映していると考えるべきではないか。

まずは、消費税率に関することから。ヤルマルソン長官は付加価値税の負担率の高さへの国民の理解について次のように述べている。

「全般に国民は公共サービスで社会が機能しているという信頼感があるから、高負担を受け入れている。自分が納めた税金の分だけ受益があるということだ」

税負担と公共サービスの受益が明確ということなのだろう。日本政府がそこまで信頼されていないと考えるインタビュアーは、なぜ、そこまで信頼を得ているのかと聞き返す。

「政府が国民に開かれていることではないか。スウェーデンの税の多くは地方税。市長がレストランなどで市民と直接ふれあい、教育、児童福祉など政府の歳出がよく見える。納めた税がどう使われているかということをネットでも情報開示し、透明性が極めて高いことが信頼につながっているのではないか」

ネット公開などの方法は言わずもがなではあるが、大きなところは、それが地方税であるということではないか。自分の身近な生活環境のなかで、自分が支払う税金がどう使われ、自分でどう利用できているのか、が実感し易いのも大きな違いであろう。それが建設・道路などのハコモノに使われるのか、それとも生活に根差したサービス(待機児童対策等)に使われるのか、各人の立場で善し悪しも判断できるし、そのうえで納得感も得やすい。

次に法人税の低さに関するコメントで氏は下記のように述べている。

 「法人税率は約26%と日本よりも低い。スウェーデンは米国や日本のように母国市場が大きくない。法人税率を高くすれば、企業が逃げて、法人税収自体がなくなってしまう。企業の国際競争力を常に意識している」

今後、低成長、しかも人口が減っていく日本においては、示唆に富むコメントである。結局、国内市場が飽和してビジネスの魅力がなくなる一方、税負担が高ければ、企業はその国から出て行ってしまう危険性がある。日本政府が今後の課題として認識すべきことをしてはいまいか。

昨年秋からの景気悪化により、特に製造業において、「派遣切り」の問題が取り沙汰された。企業側の社員に対する不適切な対応に賛同はしかねるが、急激な人員整理は経営の論理で考えると理解できなくはない。経営視点で考えれば、製造設備、そしてそこで働く人員は固定費にほかならず、急激な景気悪化が起こり、その対応を急ぐと、社外からは極端な行動と映りかねない。一歩でも対応を間違えば、著名な会社であればあるほど、メディアからのバッシングが起こってしまう。一方で、あまりに規模が大きすぎてその舵取りが自らできなかった例が、クライスラーであり、GMである。これら一連の出来事で、企業の経営層は改めて国内で製造現場を持つことのリスクを痛感したに違いない。

結果、どういうことが今後、予想されるかといえば、固定費削減、もしくは柔軟な固定費化を狙っての製造拠点の海外移転ではないだろうか。人員調整しにくいうえに、法人税が他国と比べて5~6割増しでは日本で活動するメリットが感じられにくい。文化的な背景も無視できないので、本社機能まで離れることがありえないかもしれないが、製造拠点の売却、もしくは海外移転へのモチベーションは低くないのではないか。

そのため、企業側が海外移転する環境は整いつつあるといえる。そんななかで、法人税率の維持、もしくは上昇を考えるのは危険であろう。企業の活動を海外に移されれば、そもそも法人税が入ってこないし、雇用も国内で確保できないので、それにまつわる消費税や所得税、住民税が入ってこない。一方、社会保障費の支出は海外に移転はしてくれないので、残ったものがその負担を肩代わりするか、もしくは、支出を削減、サービスを低下させるかしかない。

これら一連のことが起これば、日本全体が縮小均衡化し、「過去の遺産」で社会を維持する構図になる。それでも、団塊世代以上の世代が生きているうちはいい。もし、その世代が少なくなれば、彼らの「遺産」も当てにできなくなる。あと10年もすれば、そういったことは目に見えて顕在化する。

後になって考えて、「あぁ、あのとき、こうしていれば。。。」ということは避けたいものだ。最悪の事態を避け、きちんと自らの意思を表明するためにも、今回の衆議院選の持つ意味は大きい。郵政民営化を問うた前回選挙の課題が一区切りし、今度の選挙は、将来の社会保障のあり方とともに、今回取り上げた税の問題がひとつの争点になるだろう。それは「遠い向こう側の出来事」ではなく、身近に起こる「こちら側の出来事」になる。

いろいろな争点をはらむ税の問題であり、どちらがいいということではないが、ここで挙げた課題も念頭に自らの意思を反映させる必要があるのではないか。一票を投じるという行動を通じて。

K

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