2009年2月14日土曜日

Winners and losers in IT Industries <Conclusion>

これまでのIT業界の「勝ち組」企業の業績を振り返って、その強さの秘密を整理したいと思う。

結論から言えば、「勝ち組」企業は、製造業である第2次産業という括りを抜け出し、サービス産業に半歩踏み出した「第2.5次産業」(=「サービス製造業」/「Serviced manufacturer」)ともいうべき事業スタイルを確立しているところに不況に負けない強さの秘密があるといえそうだ。

マーケティングの観点から製造業にサービス的な発想が必要と説いたTheodore Levitt博士の「Marketing Myopia」(=「マーケティング近視眼」)的な発想から、実際にサービス事業を売上・利益に貢献させられる製造業に発展させたとも言えるかもしれない。

業種は異なるが、同様に製造業におけるサービスを模索し、金融事業で底入れしてきたGMやGEが、昨今の金融危機で打撃を受けているのとも一線を画す。

IT業界の勝ち組であり、また、「サービス製造業」として高業績を裏付ける特徴を2点ハイライトしたいと思う。

まず、ひとつ目はサブスクリプション売上の存在だ。

「サービス製造業」とはいえ、IBMとAppleの2社の間でもサービス事業の売上比率は開いており、全体売上のうち、IBMが80%、Appleで 20%前後くらいがサービス事業と想定される。そうした違いがありながらも良い業績が残せるのは、サブスクリプション売上のお陰だ。

先に触れたように、IBMの売上の40%、利益の60%は、ライセンスや契約ベースで定期購入される商品・サービスであり、また、Appleでは売れ筋の iPhone(含むAppleTV)を契約期間に按分して売り上げを計上する「サブスクリプション・アカウンティング」を採用し、2年間に分割して売り上げを計上している。

こうしたサブスクリプション売上が両社の売上と利益を下支えしており、景気に左右されない業績を残せているのだ。

2つ目は、身軽な組織体制で高い収益を上げている点だ。

通常、製造業は工場などの生産設備を使い、商品を製造している。そのため、製造業は、製造設備の分、バランス・シート上のアセットは重くなり、かつ、減価償却費による資産の費用化により、収益も圧迫させられる。また、一度、そういった設備を持ってしまうと、そこで働く人の問題も含めて容易には事業活動を変更したり、やめたりできない。よって、事業を行うにあたっては、それなりのコミットメントが求められる。

その点について、今回の「勝ち組」2社はどうだろうか?下の表をご覧いただきたい。総資産、有形固定資産、純利益の各データは、昨年9月末までの直近4四半期分の数値を平均して算出している。また、ROAについては、昨年末時点の数値を参照した。



総資産に占める有形固定資産の割合はIntelが最も多いものの、ソニーはちょうど、IBMとAppleの中間くらいの規模であるため、総資産に占める有形固定資産の比較では傾向は伺えない(1)。また、総資産の活用の効率度を確認するROAも、この年末時点でソニーは極端に低いが、逆にIntelが「勝ち組」2社を上回っている(2)。さらにもうひとつ突っ込んで、有形固定資産がどれだけ効率的に売上を生んでいるかをみるために、売上を有形固定資産で除した数値も算出した(3)。ここで「勝ち組」と「負け組」の業績を明確に分かれ、圧倒的に「勝ち組」の数値が高くなった。IBMはソニーに対して約3倍、インテルに対して約2倍、Appleはソニーの9倍弱、Intelの5倍強の効率が高いことになる。

ここで触れた2つの観点を基に、さらにIBMとAppleの特徴を分析してみたい。

主たる対象マーケットは、IBMがB2B、AppleがB2Cといえ、違う「土俵」で事業を行っていることになるが、両社ともに好業績を残しており、B2BかB2Cかということは大きな要因にはならないようだ。

次に、サービス事業の比率であるが、先に触れたようにIBMは8割、Appleが2割で大きな差がある。これだけみると、Appleのほうがハードウェア主体のビジネスと言えそうだが、実は総資産に占める有形固定資産の比率でみると、AppleはIBMの半分しかない(IBM:12%、 Apple:6%)。ここから、Appleにおいて製造のアウトソースが進んでいることが伺え、それは有形固定資産に対する売上がIBMの倍以上(IBM:20%、Apple:53%)であることで裏付けられる。いいかえれば、Appleがメーカーでありながら、製造はほかに任せ、自身はデザインやアイディアなど分野で強みを発揮しようとしていることがわかる。Appleとともに、製造業の雄としてマスコミで取り上げられている任天堂も含めて、ここに、メーカーのあるべき一つの理想的な姿があると言えそうだ。

さらにいえば、Apple内でiPhoneやAppleTVが、今後、サブスクリプション売上がさらに伸びていけば、収益の安定化にさらに磨きがかかることになるため、日本の家電メーカーは、一層、差をつけられそうだ。

やや意外だったのが、IBMとIntelの売上:有形固定資産比率をみたときに、IBMのほうの数値が高かったことだ。単純に考えると、IntelのほうがIBMよりも製造自体をアウトソースしている比率が高いともいえそうだが、こちらは、慎重に確認する必要があるかもしれない。

勝ち組企業の特色をハイライトするために下記のレーダー・チャートを作成した。このチャートには、純利益率、有形固定資産に対する純利益率、ROA、有利子負債を営業利益で割って算出する債務償還年数、従業員一人当たり純利益額、ROEを業績指標としており、外側にポイントがあるほど、その指標の業績が良いということになる。



このチャートをみると、勝ち組の特徴として、ROEの高さから株主資本を有効に使っていることがわかる。また、有形固定資産が利益創出に向けて有効に使用されていることも垣間見える。なお、Intelはいくつかの指標では良い指標であるものの、昨年の10-12月期で業績を安定させることはできなかった。


以上、4週間にわたってIT業界の「勝ち組」と「負け組」を分析してみた。皆さんの印象はどうであっただろうか?率直なコメントをお寄せいただければ幸いである。

K

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