2010年1月24日日曜日

日本航空は日本の社会主義システムの遺産だったのか?

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まずは、このショッキングなタイトルが、日本航空の関係者の方々の気分を害したようであれば、ご容赦願いたい。

ただ、今回の日本航空の更生法申請に至る状況の社会的なインパクト、及び業績の悪化のレベルがあまりにも大きく、経営の非効率さ、もっと言うと存在そのものが、社会主義崩壊で見られた国営企業の状況にあまりにも酷似していると感じ、このタイトルをつけた。

20日付日経新聞によれば、「JALグループの負債総額は2兆3,200億円で、金融機関を除く事業会社では過去最大」だという。

一部報道で言われていた8,000億円の債務超過額もかなりのものだが、負債総額2兆3,200億円は想像を絶する額だ。

さらに、今後、企業再生支援機構による支援の下、総額9,000億円の公的資金枠が用意されるという。

この公的資金には税金が投入されることになるから、結局、日本航空再建の一部負担を国民が行うことになる。

9,000億円がどれくらい大きいかというと、民主党マニュフェスト主要項目と比べると、子ども手当の1.7兆円に及ばないものの、農業の個別所得補償(6,000億円)、高校の実質無償化(4,000億円)、暫定税率(2,000億円)よりもはるかに大きい。
財務相「平成22年度予算のポイントより」 

政権交代に影響を及ぼした主要政策よりもはるかに大きな額をJAL再建に投入することになる。

JALは1987年に民営化されたが、航空事業を生業とする規制業種の常として、常に国土交通省の管理下におかれる一方、地方空港ができるたびに路線を拡大、拡大を主導する政治家も一枚噛んで、事業を行ってきた。

地方空港建設の際は地元の建設業も潤っただろうし、JALの運転資金を補充する目的で、大手銀行はさして営業努力することなく、金利をピンはねできた。

まさしく、絵に描いたような政・官・業の癒着で、その影響も大きかったことは想像に難くないが、個人的にそれ以上の問題は組合だったと思う。

JALの組合は、「沈まぬ太陽」でも題材になったように、かなり強力である。

最近、その名残を感じさせたのは、JALの年金問題だ。

このBlogでも、取り上げたことがあるが、JALの年金は、これまで、現在の市中に比べ、破格の利率が保障されていた。

この秋以降、会社そのものが破たんに傾きつつあるのに、回答期限ギリギリまで、財産権を盾に年金減額に応じようとしなかった。

「沈まぬ太陽」以来、JALの組合のことを意識したことはなかったが、年金に対する組合の一連の対応は、その強さを感じさせるに十分だった。


最近、経済と社会の主導権を握っているのは、市場か国家かを描いた「市場対国家」という本を読んでいる。


市場対国家 上巻 世界を作り変える歴史的攻防 (日本経済新聞社)

世界の様々な国の問題を取り扱う興味深い本なのだが、これを読むにつけ、金融危機後、悪玉かのように思われている、市場経済重視の「新自由主義」政策も、その発生において、必然があったと思わされるのである。

なぜなら、社会主義が横行するあまり、組合によるストが横行、公共サービスまで影響を受けるようになる一方で、赤字前提の財政政策によって、インフレが生活を直撃したために、経済が停滞期を迎えてしまうという悪循環になったからだ。

もちろん、働くものの権利を阻害してはならないし、それを担保する組合の役割も尊重すべきと思うが、そもそも、その組合員に給料を払う、会社・団体が弱体化すれば、権利を主張する騒ぎでなくなる。

かといって、市場至上主義でいいのか、といえば、一昨年の金融危機をみれば、わかるようにそんなことはなく、何事も行きすぎはよくないということかと思う。

これらの事例にJALがどう当てはまるかといえば、結局、組合の強さで、会社そのものが弱体化、競争力が失われたということだと考えている。

その意味で、20日の日経新聞の社説は興味深く、関連するポイントを抜粋する。

「日航の経営が本格的におかしくなるのは21世紀に入ってからだ」

「過去10年の日航の合算純損益は1千億円を軽く突破する巨額の赤字だ。それでも破綻を免れてきたのは、ひとえに公的金融機関の支えがあったからだ」

「状況が悪化しても、危機感はなかなか浸透しない。部門間の対立や複雑な労使関係も改革のスピードを鈍らせた」

「その象徴が今回の再建でも大きな問題になった企業年金だ。積み立て不足は10年以上前から指摘されていたが、OBの反発を恐れて、手をつけなかった。ライバルの全日本空輸が早くも03年に後年度負担の発生しない確定拠出型の年金を導入したのとは対照的だ」
 
「日航を追い詰めたもう一つの要因は自由化の進展、競争の激化だ。98年にスカイマークなどが新規参入し、東京―福岡などの幹線で価格競争が加速した。民営化の成功で体力を回復したJR各社は新幹線の高速化に乗り出し、空の客を奪った」


先に述べたように、JALは87年に民営化し、株式まで公開していたが、新規参入をもたらす規制緩和を行った後も、「国営企業」的な経営を続けてきたことがわかるだろう。

公的金融機関が資金繰りを支え、ライバルがいち早く切り込んだ年金処理も先送するなかで、収益に対して余りある負債は膨らみ続け、結局はそのツケを国民が公的資金で支払うこととなった。

JALを利用しないANAユーザーも、ライバル会社のANA社員も、まして、飛行機を利用しない人さえも、そのツケを支払うことになるのだ。

これを社会主義と言わずして、何と言えばいいのか。

一部、政治家や官僚、そして、関連する企業がJALを利用し、甘い汁を吸ったからJALの経営が傾いたという指摘もあるが、国内線に強いとされたANAが、依然、存続しているのだから、これは誇張に過ぎるというものだろう。


今回のJALの会社更生法に至る皮肉は、生活者目線を重視する、民主党政権下で行われたことだ。

昨年9月の時点で前原大臣によるJALの自主再建案の見直しがなければ、さらにいうと、自民党政権なら、更生法申請には至らなかったかもしれない。

労働者よりも企業寄りとされた自民党政権が組合の強いJALを生き延ばし、企業よりも労働者寄り民主党がJALを更生法に導く。

本来であれば、労働者の見方で、失業者を最小限に抑えたいリベラルな民主党政権が、産業再生支援機構の下、会社更生に向けて、新自由主義的な厳しい再建アプローチで臨み、その結果、多くの失業者を生みだす、という皮肉。

今回のJALの会社更生法の善し悪しを議論する段階ではないが、ここにも、民主党政権の矛盾が垣間見えてしまう。


実は、私は、個人的にJALに強い思い入れがある。

学生で就職活動を行っていたとき、航空会社に興味もないくせに、JALの就職試験を受けた。

ミーハーなノリでOBの方とお会いしたのだが、空港のレストランで話した仕事がとても刺激的で魅了されてしまった。

こういう方がいる会社なら勤めてもいいなという気持ちが芽生え、2次試験に臨んだが、そもそも希望していない業界だったために不勉強ぶりをさらけ出してしまい、結局、採用の切符を得ることはできなかった。

それでも、OB面接のことが忘れられず、それ以来、海外への渡航はJALがメインで、初めてマイレージカードを作ったのもJALだった。

また、カレンダーのお気に入りはJALの「世界の美女」シリーズだ。

大学院時代、寝る前にそのカレンダーに眺めて、世の中にはいろんな国にいろんな美しい人がいるものだと、勉強で堅くなった頭を休めてくれた。

今でも、居間を飾るのは、この「世界の美女」カレンダーである。

だから、今回の結果は残念だし、複雑な想いなのだが、将来、「あぁ、やっぱりJALはいいなぁ」と思えるように、再生を期待したいのだ。

K

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