2009年6月28日日曜日

モノの価格から見えてくること

26日付けのFinancial Timesに久しぶりにAlan Greenspan氏の寄稿文が紹介されていた。

氏は、そのなかで、米国は(2010年へのずれ込みも示唆しつつ)これから数カ月のうちに住宅価格の安定で金融危機が終結するだろうと述べるとともに、今後の景気回復を占ううえで、インフレが景気回復に悪影響を及ぼす可能性があることを示唆している。

資産インフレによる株価回復を見通す一方で、ここ最近の米政府の支出拡大、大量のマネーサプライの動きがなんらかの政治的圧力により短期的に阻止されることがあれば、インフレを引き起こす、と警鐘を鳴らしているわけだ。

興味のある方は、無料でアクセスできる記事のようなので、ぜひ、アクセスしていただきたい。

ブルームバーグでは日本語で短い解説をしている。


この記事と前後して、総務省は、5月の消費者物価指数を発表、日本ではデフレ傾向への警戒感が強まっているようだ。

総務省発表の概況:

1. 総合指数は平成17年を100として100.6となり,前月比は0.2%の下落。前年同月比は1.1%の下落となった。

2. 生鮮食品を除く総合指数は100.5となり,前月比は0.2%の下落。前年同月比は1.1%の下落となった。

3. 食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数は98.9となり,前月と同水準。前年同月比は0.5%の下落となった。

日経新聞と毎日新聞のコメントからメディアはどうみているかを確認したい。

(日経新聞)
・ 消費低迷で物価が下がり続ける「デフレ」懸念が強まっている。

・ 値下げには消費喚起の効果がある。ただ原材料費などが下がらなければ、企業は身を削った価格競争を迫られる。(中略)収益悪化が賃下げなどにつながり消費が縮めば、物価下落と景気悪化が連鎖する恐れがある。今後も物価が下がると消費者が予測すれば“買い控え”が起こり、経済活動が滞る。

・ BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「その後も1%を超えるマイナス幅が続く」とみる。

・ 日本総合研究所は消費者物価が2009年度、10年度と2年連続でマイナスと予測している。長引く物価下落は、持ち直しの動きが見える国内景気を下振れされる不安要因でもある。

(毎日新聞)
・ 与謝野馨財務・金融・経済財政担当相は閣議後会見で「日本経済が底割れしないように、またデフレスパイラルに陥らないように注意深く経済運営を行わないといけない」と、物価下落の拡大傾向に懸念を表明。

・ 5月の消費者物価指数が過去最大の下落幅となったのは、昨年夏まで史上最高値の水準で推移していた原油価格が大幅に値下がりしたことに加え、消費不振の長期化で「値下げしないと売れない」状況に陥っているため。

・ 内閣府によると、日本経済全体の需要と供給の差を示す「需給ギャップ」は09年1~3月期、過去最大の45兆円(年率換算)の需要不足を記録。モノの生産に対して個人消費などの需要が追いついていないことを裏付けた。

・ 解消には消費を伸ばすか、過剰な生産を減らすしかない。政府は、定額給付金やエコポイントなど消費刺激策を繰り出しているが、08年秋以降の企業業績の急激な悪化を受け、今夏のボーナスは前年比大幅減となる見通しで、家計の財布のひもは簡単に緩みそうにない。企業が減産の動きを再び強めれば、リストラなどの雇用調整は避けられず、肝心の需要をさらに冷やすことになりかねない。

・ 民間エコノミストの間では「デフレが企業収益を圧迫し、雇用縮小、所得と消費の減退につながる悪循環に入り込む」との見方も根強い。


アメリカでは中途半端な景気対策がインフレを引き起こし、景気回復に悪影響を及ぼすといい、日本では今年に入ってからの需要不足がデフレ傾向を招いているという。

言い換えると、アメリカではここ最近の経済対策に一定の効果を感じているのであろう。

一方、日本のほうは経済対策の効果そのものが、まだ、機能していないというのが実態であろうか。

ただ、各国との経済対策を比較して、日本の対策規模が小さいわけではなさそうだ。

先週のブログで紹介した、「平成21年版通商白書概要」(P7)によれば、昨年度分の補正予算と今年度の予算規模だけでみれば、ここ最近経済の好転が確認されている中国やアメリカなどよりずっと大きな対策予算が組まれている。

毎日新聞も触れている定額給付金やエコポイントなど、これからその効果が確認されるであろう対策もあるので、今後、政府の対策が効いてくるという見方もできるかもしれない。

ただ、こと日本のデフレ問題に関しては、先の新聞各紙のコメントのように見通しは明るくない。

今回の新聞社のコメントを確認しつつ、その原因を考えると、日本では雇用に対して有効な対策が打たれていないと感じずにはいられない。


恐らく、今回の夏のボーナスが昨年に比べ、上がったところはほとんどないだろう。

働く側からすれば、今の職場のポジションがどう確保できるかのほうがより緊急度が高いのではないだろうか。

賃金は上がらず、しかも、雇用が安定しないなか、消費を上向けるのは、経済理論の原則からすれば無理な相談である。

理論上、賃金が上がらなければ、モノへの需要も伸び悩み、モノの値段も上がらない。

デフレを生み出す原因の一つはこの流れに原因がある。

モノの価格が下落しているから、生活が楽になるわけではない。

今回のこの環境下では、価格が下落している理由は雇用環境が悪化していることの裏返しであると捉えるべきである。

先の新聞の記事では、今後もデフレ傾向が続くという見方が大勢だという。

言い換えると、雇用環境の好転も望めない、とみている専門家が多いということでもある。

これからの生活設計をどう考えるべきか、悩みどころですね。

K

0 件のコメント: